【ときめく一献】  

2026.01.28

弥生 マンチェゴチーズ

日本酒とチーズって、合うの?

去年の夏、北スペインとポルトガルを旅した。どちらの国にも友人のシェフがいて、彼らの店や自宅を訪ねながら、土地の料理を食べさせてもらう、とても贅沢な旅だった。

市場で買ったばかりの食材でさっと作る一皿や、家族の味として受け継がれてきた郷土料理。ワインと共に並ぶ料理を囲みながら、日本の話、日本酒の話をしていると、決まって聞かれる質問があった。

「日本酒とチーズって、合うの?」

ワインとチーズが文化として深く根付く土地だからこそ、その疑問はとても自然だ。私は少し考えてから、いつもこう答えていた。「ものによると思う。でも、合わせてみるのは楽しいかも。」と。

思い返してみれば、旅の間に食べた料理の多くは、実はとても発酵的だった。チーズはもちろん、塩漬けや熟成を経た肉、酸味を生かした煮込み。味の決め手は、派手なスパイスよりも、時間がつくる旨味だった。日本酒もまた、発酵が生み出す飲み物だ。米と麹、微生物と時間。そのプロセスを思うと、遠く離れた食文化の中に、共通する感覚があることに気づかされる。

日本に戻ってから、あの夏の会話を思い出しつつ、いくつかの組み合わせを試してみた。

その中で特に印象に残ったのが、ラ・マンチャ地方のマンチェゴと、山廃仕込みの日本酒の組み合わせだった。

COWBOY YAMAHAI 山廃純米吟醸原酒 720ml

 乾いた大地が広がるラ・マンチャで生まれるマンチェゴは、熟成が進むにつれて、羊乳のコクの奥からナッツのような香ばしさが現れてくる。特に後半に残る、あのナッティーな余韻が、このチーズらしさだと思う。そこに合わせた山廃は、酸と旨味の層を持つタイプ。

マンチェゴの後味に出てくる香ばしさと、山廃の複雑な旨味が、意外なほど同じ方向に流れていく。発酵という共通言語を持つ者同士が、静かに会話しているような感覚だった。

日本酒とチーズは、いつでも完璧に合うわけではない。でも、最初から線を引いてしまうのは、少しもったいない。泡のように、いくつもの層を持つ日本酒。熟成によって味の層を重ねていくチーズ。その層同士がふと噛み合ったときに、「意外に合う」という瞬間が生まれる。

スペインやポルトガルで出会ったシェフたちは、決して型にはまらず、まず味わい、確かめる人たちだった。日本酒とチーズの組み合わせも、きっと同じなのでは、と彼らとの素敵な思い出を反芻。

夏、イベリア半島で幾度となく聞かれた質問。

「日本酒とチーズって、合うんですか?」

今なら、こう答えたい。

合うかどうかは、ものによるけれど、試してみること自体が、とても美味しく豊かな時間なのでは?と。王道だけではない、型にはまらない色々な組み合わせを探し愉しむのもまた一献のたのしみなり。

COWBOY YAMAHAI 山廃純米吟醸原酒 720ml⇒塩川酒造 – 名酒センター

プロフィール:小門 亜裕子 (料理家)「WASHOKUを世界に!」をキーワードに世界に日本の「美味しい」を届ける活動をしている。年間3000人の訪日外国人が受講する和食料理教室Buddha Belliesを主宰。著書 『英語でレッスン!外国人に教える和食の基本』《秋山亜裕子 IBCパブリッシング》