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『おりがらみと一年の終わり』
2024.12.05更新
『甘酒と〝縁〟と初詣』
――年が明けた。
2024年が終わり、2025年が始まる、移り変わりの時期。
今年も仕事の関係から実家に帰ることはなく、大晦日と元旦は自宅でお屠蘇を飲みつつ、買ってきたおせち料理やお酒を楽しみながら、のんびりとした時間を過ごした。
そしてまだ辺りが新年の空気に包まれている一月二日。
私は、初詣のために、神田明神に来ていた。
家から近いということや、またそのご利益が自分に合っていることもあって、初詣は毎年ここに来ることにしているのだった。
白い息を吐きながら、建物の二階ほどの高さはある大鳥居を見上げる。
ここから境内へと入ることができるのだけれど……ただその前に、お楽しみがあった。
向かったのは、大鳥居からほど近くにある、いつものお店。
その店頭では、このお正月の時期には甘酒が売られているのだ。
冬の甘酒には不思議な魅力がある。
大きな鍋に満たされた、独特の麹の匂いがする甘酒を見ているだけで、どこか胸がワクワクしてくる。
店員さんに新年の挨拶をして、カップに入れられた甘酒を受け取る。
その温かさに少しだけ手の冷えが消えていくのを感じながら、湯気を立てる温かな液体を喉の奥に流しこんだ。
「はぁ……」
思わず声が漏れる。
身体にじんわりと染みこんでくるやさしい甘みと旨味。
燗酒とはまた違った柔らかな温もりが、全身を内側から温めてくれる。
お正月に甘酒を飲むのには、魔除けや無病息災を願う意味合いがあるという話だが、それを肯定するかのように、どこかホッとさせてくれるような、身体を清めてくれるような何かが甘酒にはあった。
甘酒を飲み切った後は、そのまま店内へと進む。
参拝をするのにはまだ境内が混んでいそうだったので、いつものようにカウンターで一杯楽しみながら、しばらく時間を潰すことにしたのだ。
実はここでも、お目当てのものがあった。
頼んだのは――『純米吟醸鳳陽 蛇の酒』
去年、新年に飲んだ『純米吟醸鳳陽 竜の酒』と同じ、干支のラベルが使用された縁起のいいお酒だ。
グラスに注がれたそれを、おもむろに口に運ぶ。
上品な吟醸香を感じたかと思うと、続いてやさしい甘さがふわりと染み渡るように広がっていき、思わず笑顔になってしまう。
――今年も、よろしくお願いいたします。
口の中に残る心地の良い幸せなお酒の余韻に浸りながら、心の中でそっとつぶやく。
目の前のお酒に、いつものお店に、親切に接してくれる店員さんに。
関わらせてもらった仕事に、この場にはいない仕事仲間や後輩に、たくさんのお世話になった人たちに。
そして新しい年に新しく出会うであろう数々の〝縁〟に……そう感謝の言葉を贈る。
今年もまた、素敵な〝縁〟に巡り会えることを願って。
やがて、たくさんの感謝の思いとともにお酒を飲み終える。
視線を上げると、目の前の道を行き交う人の数も心なしか少なくなってきていた。そろそろ境内の混雑も少しマシになってくる頃だろう。
店員さんに挨拶をしつつ席を立って、私は〝縁〟結びをご利益とする神社へと、足を向けたのだった。
さけ×こえフルール第6話(千代むすび登場回)
【G’sチャンネル掲載URL】
https://gs-ch.com/articles/contents/ar92hDKWKNjyPQ2mvfasohjP
五十嵐雄策プロフィール▶小説家・シナリオライター。東京都生まれ。
2004年KADOKAWA電撃文庫からデビュー。
ゲームシナリオや漫画原作、YouTube漫画脚本やASMR作品脚本なども手がける。趣味はお酒を飲むこと、釣り、旅行、ドライブ、ピアノ演奏等。他、著作に「ひとり飲みの女神様」(一迅社メゾン文庫)、「ひとり旅の神様」(メディアワークス文庫)、「七日間の幽霊、八日目の彼女」(メディアワークス文庫)など。