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『日本酒と甘やかしの時間』
2025.06.07更新
『日本酒とラベル』
今日は花火の日だ。
といっても、本物の花火ではない。
七月上旬のとある夜。仕事を終えて帰宅した私の目の前にあったのは、一本の日本酒。
『千代むすび 純米吟醸 夏酒 無濾過原酒』。涼やかな水色が目にまぶしいその瓶は、ラベルのデザインが花火になっていた。

エアコンのスイッチを入れて、ゆっくりとグラスにお酒を注ぐ。こちらも温度変化で表面に花火の模様が浮き上がる仕様になっているので、今日は瓶もグラスも花火一色だ。
「はぁ……」
よく冷えたさわやかな味わいが喉に滑りこんできて、ようやくひと息つくことができた。改めて、花火のラベルに目を遣る。ポップで魅力的なデザイン。
日本酒のラベルには、それだけで目を引かれるような素敵なものがたくさんある。特に夏のこの時期、夏酒に貼られているラベルは、季節感を前面に打ち出したものが多く、見ているだけで胸がワクワクしてくる。
花火、金魚、スイカ、朝顔、シロクマ、ペンギン、その他色々。どれも夏を感じさせてくれて、視覚の上でもお酒を楽しませてくれる。
ラベルは、日本酒に触れる上でとても重要な要素を担っていると思う。
今言った夏酒しかり、ラベルに季節を感じられるとうれしくなるし、酒屋に寄った時などにふと目に入ったラベルにひと目ぼれをして買ってしまうこともある。それがきっかけでお気に入りになったお酒も多い。また飲み終わった日本酒のラベルをきれいに剥がして、コレクションにしている人たちもいるという。
私はまだそこまではできていないけれど、飲んだお酒のラベルは写真に撮ることにしている。
そうすることでコレクションの醍醐味を味わえるのと、種類をたくさん飲んだ時には、どうしても細かな銘柄などは覚えきれないこともあるため、その備忘録としてだ。
おかげでスマホのカメラロールは日本酒の写真で埋め尽くされていて、たまたまそれを見た知り合いに苦笑されてしまうこともあった。だけどそのことが入口となって、日本酒の話が弾むこともある。そういったもの全て引っくるめて、〝縁〟なのだと私は思う。
改めて『千代むすび』を口にする。軽快でスルスルと飲める夏酒らしい味わいと、目の前の花火のラベルが合わさり、まるでお祭りにいるような気分にさせられる。
そういえば、来月には『神田明神 納涼祭り』がある。毎年行っているそれに、去年は初めて後輩を誘って参加してみたところ、とても楽しんでくれた。
今年もまた誘ってみようか。
新しい後輩も増えたし、せっかくなのだから、華やかなお祭りの雰囲気の中で日本酒を紹介してみるのもいいかもしれない。
入口は、ラベルは何であれ、結果として日本酒を好きになってくれるのならそれはとてもうれしいことなのだから。
そんなことに思いを馳せながら、さらにグラスを傾けるのだった。
さけ×こえフルール第6話(五十嵐雄策原作)
【G’sチャンネル掲載URL】
https://gs-ch.com/articles/contents/ar92hDKWKNjyPQ2mvfasohjP
「さけ×こえフルール」単行本1巻,発売中!

五十嵐雄策プロフィール▶
小説家・シナリオライター。東京都生まれ。
2004年KADOKAWA電撃文庫からデビュー。
ゲームシナリオや漫画原作、YouTube漫画脚本やASMR作品脚本なども手がける。趣味はお酒を飲むこと、釣り、旅行、ドライブ、ピアノ演奏等。他、著作に「ひとり飲みの女神様」(一迅社メゾン文庫)、「ひとり旅の神様」(メディアワークス文庫)、「七日間の幽霊、八日目の彼女」(メディアワークス文庫)など。