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日本酒とチョコレート
2026.03.05更新
『雪見酒の楽しみ方』
――二月のとある日。
その日は前日から雪予報が出ていた。
南岸低気圧が夕方から夜にかけて関東地方に接近するということで、未明にかけて都市部でも二~三センチほどの積雪になるのだという。
雪に弱い都会としては一大事だけれども、それはそれとして、私にはその日やってみたい計画があった。
それが――これだ。
目の前にあるのは、いつものお店で頼んだ飲み比べが三種。
『天鷹 にごり酒』『弥栄鶴 にごり酒』『ワッショイ星人 にごりへべす』
それ自体は珍しくない光景。
ただしいつもと違うのは、それらが全てにごり酒であることだ。
外で雪がしんしんと降る中、その幻想的な光景をのんびりと眺めながら、温かい室内で雪見酒がしたい。
そんな計画を思わず立ててしまったのは、私の中にある呑兵衛の性ゆえなのだろう。
仕事も午後で終わりだったため、夕方あたりからお店に入り、チビチビとお酒とおつまみを楽しむこと一時間あまり。
はたして目論見通り……空から白いものが舞い散り始めた。
最初はほんの金平糖ほどの大きさだったそれは、次第に大粒になり、辺りが暗くなる頃にはすっかり本降りとなっていた。
そんな光景を目にしながら、胸の奥のワクワクを抑えつつ、にごり酒を口にする。
にごり酒独特の風味が口の中から鼻に抜けていき、地面に落ちて溶ける雪のように喉の奥に消えていく。
「はぁ……」
計画のお供ににごり酒を選んだのは、もちろんその見た目が雪と似ているからだ。
窓の外でも、グラスの中でも、真っ白な粉雪がゆっくりゆっくりと降り積もっていく。
グラスを透かして外の風景を見ることで、それらが混ざり合って、まるで融け合うようにして一つになっていくのを楽しむのが、私は好きだった。
頬を緩ませながら、順に目の前のグラスを飲み比べていく。
どれもとてもおいしく好みだったけれど、その中で少しだけ変わり種なのが『ワッショイ星人 にごりへべす』だ。
へべすとは宮崎県特産の柑橘類で、スダチやカボスなどの仲間なのだけれど、他のものよりも果汁がたっぷりで、味わいがまろやかなのが特徴であるらしい。そんなへべすの果汁と、日本酒を合わせたものが、この『ワッショイ星人 にごりへべす』だった。
正確に言えばリキュールなのだけれど、味わいはほとんど日本酒だと言っていい。文字通り、日本酒のお米の旨みに柑橘のさわやかさが合わさったイメージだ。
にごり酒の濃厚な味わいの中にある柑橘の確かな風味を感じながら、のんびりグラスを傾けていく。
これもまた、様々な〝縁〟が出会うことによってできた一本なのだろう。
窓の外では舞い落ちる雪はその勢いを増していて、まだまだ止みそうにない。
家はここから徒歩圏内だし、もうワンセットくらい、にごり酒縛りでこのまたとない光景を楽しんでもいいかもしれない。
少しだけ酔いの回った頭でそんなことを思いながら、雪の降り積もったグラスを口に運ぶのだった。
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五十嵐雄策プロフィール▶
小説家・シナリオライター。東京都生まれ。
2004年KADOKAWA電撃文庫からデビュー。
ゲームシナリオや漫画原作、YouTube漫画脚本やASMR作品脚本なども手がける。趣味はお酒を飲むこと、釣り、旅行、ドライブ、ピアノ演奏等。他、著作に「ひとり飲みの女神様」(一迅社メゾン文庫)、「ひとり旅の神様」(メディアワークス文庫)、「七日間の幽霊、八日目の彼女」(メディアワークス文庫)など。











