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『雪見酒の楽しみ方』
2026.01.28更新
日本酒とチョコレート
三月のとある日。帰宅した私は、ほくほく顔でテーブルの上のあるものに視線を向けていた。そこに置かれていたのは、かわいらしい包装がされた紙袋。中からはかすかに甘い香りが漂ってくる。袋の中に入っているのは……チョコレートだ。
今日は三月十四日。世間一般でいうホワイトデーであり、一ヶ月前のバレンタインデーにチョコレートを交換した後輩女子から、お返しということでプレゼントされたのだ。
お洒落なデザインの、デパ地下に売られていそうなチョコレート。
普段自分では買うのにはちょっとためらわれるようなお高いチョコレートをお互いに楽しむことができるのは、こうしたイベントのいいところだ。
ワクワクしながら包装紙を丁寧に開けて、一口サイズのチョコレートを口に運ぶ。まるで宝石のように輝く褐色の粒は、上品な甘さとともに適度な苦みもあり、文字通りとろけるように舌の奥に消えていった。おいしい。
そしてここからは、私だけのお楽しみの時間となる。立ち上がり、冷蔵庫から取り出してきたのは四合瓶。『福和蔵 純米吟醸生酒』

そう、これからチョコレートをつまみに……この日本酒を飲むのだ。
日本酒とチョコレート。一見すると意外な組み合わせに思えるかもしれない。だけど実はこの二つは、思った以上に相性がいいのはあまり知られていなかったりする。どちらも製造過程に発酵工程があることや、舌触りが似ていること、カカオの香りと吟醸香の親和性が高いことなどが理由として挙げられるらしい。
まずはチョコレートを再度口に運ぶ。その芳醇な味わいと余韻を十分に楽しんだところで、間髪入れずに日本酒を流しこむ。するとそれまで残っていたチョコレートの甘みに、日本酒のフルーティーな香りと甘みが混じり合った。そのまま何とも言えないハーモニーが口全体に広がっていき……
「はぁ……」
思わずため息が出る。
まさにマリアージュと呼ぶにふさわしい組み合わせだった。以前にも少し触れたことがあるが、この『福和蔵』を造っている酒蔵は、あの有名なあずきバーを作っているのと同じ会社なのだ。そのこともこの相性の良さの一因となっているのかもしれない。しばらくの間、その甘さに包まれたやさしい時間を楽しむ。
と、そこで思いついた。
目の前の『福和蔵』とチョコレートの写真を撮って、お礼の言葉とともにプレゼントしてくれた後輩へと送る。返信はすぐにきた。弾むようなメッセージとともに、そこに添えられていたのは、やはり日本酒とチョコレートが並んだ写真。それを見てうれしくなってしまう。
きっとこうしたちょっとしたやり取りが積み重なり、繋がりとなって、やがて〝縁〟へと昇華されていくのだろう。それはある種の……とても素敵な物語だ。そんなことを思いながら、再びチョコレートとともに、『福和蔵』を喉へと流しこむ。〝縁〟は甘い味をしているのかもしれない。
何となくだけど、そう思った。
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五十嵐雄策プロフィール▶
小説家・シナリオライター。東京都生まれ。
2004年KADOKAWA電撃文庫からデビュー。
ゲームシナリオや漫画原作、YouTube漫画脚本やASMR作品脚本なども手がける。趣味はお酒を飲むこと、釣り、旅行、ドライブ、ピアノ演奏等。他、著作に「ひとり飲みの女神様」(一迅社メゾン文庫)、「ひとり旅の神様」(メディアワークス文庫)、「七日間の幽霊、八日目の彼女」(メディアワークス文庫)など。











