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日本酒とチョコレート
2026.03.05更新
日本酒と春の出会い
春は出会いの季節だ。
進学や就職、それに伴う引っ越しや人間関係の変化など、新しい生活が始まるイベントが多々あることもあり、それまでは接点のなかった相手と出会う機会が必然的に多くなる。
そしてそれは、必ずしも人に限ったことではない。
仕事からの帰り道。
ふらりと立ち寄ったいつものお店で、私はそれを見つけてしまった。

『【九尾】純米大吟醸無濾過生原酒 夢ささら×なすひかり』
つい先日発売したばかりの新商品で、欲しいと思っていた一本だ。
普段ならば迷うことなくレジに持っていくところなのだけれど、今日に限ってはそうはいかない事情があった。
自宅の冷蔵庫が……いっぱいなのだ。
一人暮らし用の中型サイズの冷蔵庫は、食材や調味料などを押しのけて、すでにその八割が日本酒の瓶で埋まってしまっている。
悪いのは自分だというのはよーくわかっている。
時間があればこうして酒屋に寄ってお酒を眺めるのは私の趣味だ。
冷蔵ケースに並んだ色とりどりの様々な種類の日本酒を見比べていると、それだけで胸がワクワクしてくる。
そしてその度に気になったお酒を二、三本――時にはそれ以上の数を買っていれば、冷蔵庫があっという間に未開封の日本酒一色になってしまうのは当然と言えるだろう。
これは日本酒好きあるあるではあるのだけれど……だからといって無条件にそれを続けてしまっては収拾がつかなくなってしまう。
そのため、今あるものを減らすまではこれ以上新しい日本酒を買うのは控えようと決めていたのだけれど……
けれどもこういったお酒との出会いは、それこそ〝縁〟だ。
今日あったお酒が次に来た時に残っている保証はないし、再入荷されるのかもわからない。
特にこの九尾は少量生産の限定流通であるため、基本的に今出ているものが売り切れてしまえばそれで終売となってしまう。
文字通り、一期一会なのだ。
だとしたら、ここで私がとるべき選択は……
「……」
たっぷり五分は悩んだ挙げ句、お店を出る私の手には四合瓶が入った袋がぶら下がっていたのだった。
目の前には、四合瓶で埋め尽くされた冷蔵庫があった。
朝のラッシュ時の満員電車よろしく、限られたスペースに隙間なくぎゅうぎゅうに日本酒が詰めこまれている。
心の中でため息を吐くも、だけどこうなってしまったものは仕方がない。
幸いにもまだ買ってきた九尾を入れるスペースは残っていたし、家に帰ればたくさんの日本酒が待っていると思えば、外でちょっと嫌なことがあっても耐えられる。なのでこの選択自体はまったく後悔していない。
ただお酒を減らさないといけないことだけは事実なのであって……
――決めた。
少しでもお酒を減らすために、家飲みをしよう。
それも一人じゃなくて、友だちや後輩を呼んで、日本酒会を開こう。
〝縁〟によって集まってきたお酒なのだから、同じく〝縁〟でつながることができた相手とシェアすることは、間違ってはいないはずだ、うん。
そう一人うなずいて、私はスマホを手に取ったのだった。
作家プロフィール流用
「さけ×こえフルール」単行本1巻,発売中!

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五十嵐雄策プロフィール▶
小説家・シナリオライター。東京都生まれ。
2004年KADOKAWA電撃文庫からデビュー。
ゲームシナリオや漫画原作、YouTube漫画脚本やASMR作品脚本なども手がける。趣味はお酒を飲むこと、釣り、旅行、ドライブ、ピアノ演奏等。他、著作に「ひとり飲みの女神様」(一迅社メゾン文庫)、「ひとり旅の神様」(メディアワークス文庫)、「七日間の幽霊、八日目の彼女」(メディアワークス文庫)など。











