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【よもやまばなし】アッサンブラージュのはなし。
2023.06.09更新
【よもやまばなし】GI利根沼田のはなし。
【蔵元訪問記】大利根酒造編で語りきれなかった「GI利根沼田」の価値とその魅力にフィーチャーしていく。
GI利根沼田とは
令和3年1月22日、日本酒では6例目となるお酒の地理的表示「GI利根沼田」が指定された。
そもそも「GI」とはなんなのか。
地理的表示(Geographical Indications)の略で、日本酒では本記事作成の令和4年4月20日現在12の地域(白山、山形、灘五郷、はりま、三重、利根沼田、萩、山梨、佐賀、長野、新潟、滋賀)が指定されている。
地域独自の文化や風土を明確な基準のもとブランド化し、商品単位で認証を受ける制度だ。
酒類についての認証機関は国税庁で、行政レベルで模造品やブランド毀損の取り締まりが可能。
消費者としてはこれにより品質、安全を担保されたお酒を認証マークひとつで識別することができるわけだから頭の隅に置いておいて損はない。
GI利根沼田は同エリアの4社(大利根酒造・沼田市、永井本家・沼田市、土田酒造・川場村、永井酒造・川場村)が協議し、利根沼田の風土を最大限に活かした日本酒をブランディングせんと発足。
認証品は4社で計7種、他地域のGI認証品よりも少ない数字だ。
指定後間もないこと、4社のみということもあるが、これには他地域よりも厳格で慎重な認証基準を設けていることも起因していそうだ。
利根沼田を映す酒
そんなGI利根沼田の生産基準とはどんなものなのだろうか。
まずは水。
とにかく清冽で豊富な水を湛える利根沼田、水にこだわらないはずがない。
産地の範囲内で採水はもちろんのこと、沈澱、濾過以外の処理をしてはいけない。
つまり塵の除去まではいいが、水質の成分を除去、変化させてはならないということだ。
そして米。
使用可能な米も産地の範囲内で収穫された「雪ほたか(地産ブランド商標米)」「五百万石」「こしひかり」の3種のみ。
香味を左右する酵母も重要。
「群馬KAZE酵母」「群馬G2酵母」「各蔵の蔵付き酵母」に限られる。
そして徹底した地場産原料へのこだわりから、醸造用アルコールの添加を認めていない。
アル添酒大好きの私もこれには賛同せざるを得ないが、意外にも他地域にはない要件なのである。
このような日本酒に適化した地理的要因に加え、生産基準における「人的要因」も他地域のGIとは少し風変わりで面白い。
江戸時代より続く利根沼田エリアの酒蔵業。
文化6年(1809年)には26軒の酒造屋があったと記録されているが、現在は「GI利根沼田協議会」に参加する4社しかない。
山や川に阻まれたこの地域は戦後まで物資の行き来が少なく、自分達で必要とするものだけを生産し、消費していた。
米においても同様で、余剰米を使い酒を造った。
不作なら1樽だけなんて年もあるほどで、それでは当然酒造業だけでは成り立つはずがなく、当時は材木業や養蚕業の傍らで酒造りをしていたという。
どこの蔵も酒造が本業ではなく、半ば素人のようなものだったので、意見交換や情報交換を盛んに行っていた。
越後杜氏による各蔵秘伝の酒造りという時代もあったようだがその名残は現在にもあり、現存の4社は技術提携を取っている。
この緊密で風通しの良い関係性により、足並みを揃えつつも切磋琢磨し合えるというもの。
原料だけでは説明がつかない利根沼田の酒にある共通点も、これで納得である。
一体どんな酒?
GIの要件には各地域ごとに味わいや香りなどの特性が明示されているが、利根沼田は他地域と比較してなんとも細かい!
そんなに具体的に言ってしまっていいの?自分達の首を絞めない?と心配になるほどだ。
〝余韻で感じる苦みが春野菜を連想させ、この地域で収穫される蕗のとう及びタラの芽等の山菜並びに青物野菜が持つ苦みとの相性がとても良い。また、利根沼田の清酒由来のアミノ酸は、この地域の特産品である畜産物(豚肉、牛肉、鶏肉)を用いた料理の動物性タンパク質由来の旨味と相まって料理の味を引き立てる。〟
(地理的表示「利根沼田」生産基準より引用)とある。
地場の農産や畜産に根拠を持って結びつけているのが堪らない。
こんなことを言われたら、どうも試してみたくなってくる。
利根沼田にはいい温泉郷がいくつもある。
温泉旅館に泊まって、地場産品をふんだんに使った会席料理でGIの酒をやる。
ああ、実証記事の取材費出ないかな・・・。
「GI利根沼田」の酒を器にとくとくと注ぎその淡い琥珀色に見惚れていると、利根沼田が誇る清き水と豊かな山々が浮かんでくる。
五感を超えて魅力を訴えかける、GIの認知向上には私も今後努めたい。
(月刊ビミー 2022年6月号、7月号より加筆転載)