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家飲みと自家熟成と〝縁〟と
2026.05.01更新
『初めの一杯』
初めの一杯を何にするか。
これは呑兵衛にとって、非常に重要な問題だと思う。
ビール、ハイボール、サワー、焼酎、日本酒、ワイン、ウイスキー……選択肢は無数にあるけれど、「とりあえず生」という言葉もあることから、最初はビールから飲み始める人が多いのではないかと思う。
もちろんそれについて異論を唱えるつもりはない。
私も昔は、一杯目はビールだった。
特にこんな気温が三十度を超えるような蒸し暑い夏日には、まずは冷えたビールのさわやかさと炭酸とで喉を潤してから次のお酒に行くことが多かった。
また何となくだけれど、日本酒は二杯目三杯目から飲み始めるものだという先入観もあったのかもしれない。
だけどある時、その思い込みが覆されることとなる出来事があったのだ。
日本酒仲間の一人が言っていた言葉。
自分は一杯目から日本酒と決めている。一日に、引いては一生の内に飲めるお酒の量には限りがあるのだから、自分はそれにできるだけ多く日本酒を充てたい……とのことだった。
そういう発想もあるのかと思い、目から鱗が落ちた気分だった。
その考え方に触発されて一杯目から日本酒を試してみたところ、これがまったく問題なかった。
というよりも、他に何も飲んでいない真っ新な状態で口にすることで、普段よりも日本酒の味がよくわかるということにも気づかされた。何だ、最初から日本酒、悪くないじゃないか。
それ以来、私の最初の一杯目はもっばら日本酒だ。ただ、やはりその中でも一杯目に向いている日本酒というものはあると思う。
たとえば、今、いつものお店で私が飲んでいるのは……『純米酒 黒牛 中取り無濾過生原酒』。

まるでフルーツポンチのようなさわやかさだと評されることもあるお酒だ。
こういったお酒だと、暑い時期の一杯目にも飲みやすいと思う。
またこの時期から出回り始めるいわゆる夏酒も、さわやかですっきりとしたものが多く、同じく一杯目に向いているという印象だ。
「はぁ……」
そんなことを考えながら黒牛を口にする。
言葉通りのフルーティーさと、シロップのような甘い香りが漂ってきて、とても幸せな気分に包まれる。
やはり呑兵衛にとって初めの一杯はとても大切だ。
最初に口にするものを何にするのかで、その日の気分やお酒とつまみの組み立て、ペースなどが決まる。そしてそれは図らずも、以前に少し話したその日の締めの一杯にも繋がっていくのだから。
さらにグラスを傾けながら、結局こういうのも〝縁〟なのだとしみじみと思う。
と、その時、お店の入り口に人影が見えた。
視線をそちらに向けると、そこにいたのは先ほど話した日本酒仲間の彼女。
手を上げて挨拶をすると、笑顔でこちらにやって来て、そのまま同席となる。うん、これもまた〝縁〟というものだ。
果たして彼女の今日の初めの一杯は何になるのだろうか。
それを密かに楽しみに思いながら、今宵の酒席の行方に思いを巡らせるのだった。
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五十嵐雄策プロフィール▶
小説家・シナリオライター。東京都生まれ。
2004年KADOKAWA電撃文庫からデビュー。
ゲームシナリオや漫画原作、YouTube漫画脚本やASMR作品脚本なども手がける。趣味はお酒を飲むこと、釣り、旅行、ドライブ、ピアノ演奏等。他、著作に「ひとり飲みの女神様」(一迅社メゾン文庫)、「ひとり旅の神様」(メディアワークス文庫)、「七日間の幽霊、八日目の彼女」(メディアワークス文庫)など。











