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【蔵元訪問記】男山㈱(北海道旭川市)
2025.02.01更新
【蔵元訪問記】伊東酒造
小さな頃から酒蔵に遊びに行けば、蔵人たちに肩車されて巡回し、酒造りのレクチャーを受けていた。今は蔵元杜氏を担う伊東毅氏。麹室では裸の杜氏に迎えられ、サウナみたいに暑いよ~と言われたのを思い出す、と言う。
目の届く量を丁寧に醸す伊東酒造の酒造りについて聞くと、辛いことはあるに違いないが、何より酒造りが好きなことが伝わってきた。
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モノづくりが好き
●伊東酒造の酒造りに加わったのはいつからですか?
伊東 大学卒業して翌々年に入りましたが、正式に造りの手伝いを始めたのは、26歳からです。
今45歳だから20年続けて、2年前に蔵元杜氏になりました。入った頃は父である現会長が社長でしたが、いきなり常務の肩書で、2003年から2007年までほとんど社長みたいなことやって、2008年に社長になりました。
●会長は元々東京で酒販店をされてたんですね。ですから実質お一人で、酒造りから社長業までされていた?
伊東 モノづくりは元から好きなので、酒が出来上がってくるのが楽しかった。
ただ、酒って造るより育てるんですね。
最近想うのですが、我が子を育てるというより、幼稚園の先生のように、皆しっかり大人になっていくんだよと送り出せるようにする、その感覚に近いです。だからいろんな人たちのところへ行って活躍していると、嬉しくなります。
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試行錯誤の酒造り
●酒造りは、農大で学ばれたんですか?
伊東 農大ですが、醸造科ではありません。
大学3年のときから造りには入って、原村の杜氏さんの元でやってましたが、具体的には教わってはいません。ここをやれとは言いますが、どうやるのかは教えてくれない。
急に麹室やれと言われても手探りで、前年の経過簿を見ながら何とかやっても、こういうもんじゃないと否定される。造りに入って3年くらいたったら、わかるようになってはきました。その頃の造りは6人で、酒は今よりはるかに多く造ってました。
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でも造りに入ると、僕は休みないです」と蔵元杜氏・伊東毅氏
●お蔵元ご自身の試行錯誤の末に創り上げたのが今の「横笛」なんですね。
伊東 元々あった味を守ろうとは思いませんでした。今は入った時点の味はないです。三造酒のような甘いお酒は造りません。
売れ筋の「〆」(けじめ)は、形にするまで4年かかりました。どこまで辛くなるんだろうと試していたら、味もそっけもないものになってしまって、次の年は味を出す酒をと仕込み、プラス3ぐらいになった。3年目は気温が低くなり過ぎて、一気に温度が下がってしまった。
もとから温度を上ずにいたら出来上がってきました!友人が、結婚するときにお嫁さんの実家に「〆」を持っていったそうです。そういうケジメのつけかたもあるんですね(笑)。
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●特別な思い入れのあるお酒ってありますか?
伊東 大事に育てているのは「大寒仕込」と「純米吟醸」です。「大寒仕込」は顔色が面白い。飲んでると最初のあたりは、強いんですが、そのまま飲んでるとおとなしくなっていく。
最初吠えてた犬がキュンキュン言うような・・。「美山錦」で造った純吟は私が好きな味。味と香りのバランスがいい。バランスがいいんで、お酒だけで飲めます。
これは年末に仕込みを終わらせるようにするのですが、温度差がある時期なので、一番気を使う。精神的に疲れます。より手をかけるというのもあって一番かわいいかもしれません。
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酒造りも営業も
●造りの期間以外は東京で営業されてるんですか。
伊東 東京で伊東酒販を構えていますので、そこで料飲店さんに営業します。伊東酒造のお酒だけではなく他のメーカーのものも販売します。
全国のお酒について聞かれても答えられるようにしてきました。営業先のお店を訪ねて、飲んだ後にセールスです。30歳ぐらいまでは3日寝なくても仕事になった。楽しかったので何とかできちゃいました。
人と話すのが好きで、名前も仕事も知らない友人がたくさんいます。ずっと話してて奢ってもいただき、どこかで見たことある顔だなと思ってたら、超有名人だったなんてこともあります。
●もう間もなく酒造りも終了だと思いますが、今期一番嬉しかったことは?
伊東 今年最初に搾った「しらかば錦」の「春穂の香」がすごく面白く美味しくできたことです。飲み口、あたりもいいけど、「しらかば錦」らしい癖のあるお酒なんです。甘いというより、重みをもってお腹に入っていく感覚がしっかりあるんです。
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●お酒に合わせる料理などはされますか?
伊東 得意料理はイタリアン、中華全般。中華は楽しくて昔から作ってます。四川料理はうちの「古道」が合います。麻婆豆腐やあまり辛くしすぎないエビちりとか。
こんなのも酒に合うかなって料理してたら、合わないものなんてないのではないかと・・・。
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●諏訪5蔵の酒蔵巡りはいつでもできるのですね。
伊東 伊東酒造含め、5蔵が旧甲州街道沿いにあります。ほとんど同じ環境下、水も同じなのに、それぞれの酒の味わいが全く違う。仲良く競えるよきライバル同士です。
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(4月から12月末までは休館)
「祖父・伊東充と親交のあった日本画家・伊東深水や彫刻家・平櫛田中をはじめ、横山大観、川合玉堂、山口蓬春、奥村土牛、上村松篁、篠原昭登などの作品を所蔵。「祖父が友人から飲み代の代わりに受け取った絵に、後々価値がついたという貴重なものもあります」と蔵元。
「横笛」のあるお薦めの店を聞くと、何店もの店の名前が蔵元から飛び出してきた。造って、育てて、送り出し、送った先まで世話をする。『平家物語』にある悲恋物語の登場人物として語られた「横笛」の名が、『大銘酒 横笛』として末永く、こんなに大切に生かされている。(竹林)
【伊東酒造】
〒392-0004長野県諏訪市諏訪2-3-62
TEL:0266-52-0108
HP:https://www.yokobue.co.jp
*5月のお蔵元を囲む会(2023年5月7日(日)17:00〜19:00)には蔵元杜氏・伊東毅氏がいらっしゃいます。↓