【蔵元訪問記】近藤酒造(群馬県)

2022.06.15

-赤城山無双-

群馬県出身の方が赤城山(あかぎさん)を見つけると、「これうまいんだよ!地元のお酒でさ~」と嬉しそうに語る。

タクシーの運転手さんに、「群馬は観光かい?」と聞かれたので、思わず「はい!」と答えると、「群馬に来たら、赤城山飲むといいよ~うまいんだよ~」と教えてくれた。

みんな大好き赤城山。地元じゃ負け知らずだと群馬出身の人に聞いたことがあるが、それって大げさじゃなかったのだと、ここで明らかになった。小売酒屋、居酒屋、スナック、ありとあらゆるお店に「赤城山」の看板が。

酒蔵から離れた場所でも、まだ「赤城山」の看板は並ぶ。コンビニに立ち寄っても、「赤城山」、スーパーにも、ずらりと並ぶ「赤城山」。この周辺の居酒屋はどこも、酒と頼んだら「赤城山」が出てくるらしい。

ここでは、転売されているようなプレミアム酒と言われるお酒なんてお呼びではない。まさに、“赤城山無双”であった。

-遠心分離機を導入-

いつ飲んでも「あ~美味しい・・・」とため息をつくお酒「赤城山 辛口」

花の蜜のような柔らかな香りに誘われて、ぐっと飲み応えがありながらも身体にスーッと染み渡る。また次へ次へと、どんどん杯が進むし、箸も進むお酒「赤城山 辛口」。

さらに驚くべきは、そのお値段。本醸造ながら720mlで855円。目を疑う数字だ。精米歩合は60%。4割も削り落としている。この豊かな香りと、グッと惹きつける飲み応え。これでこのお値段…いつ飲んでも感嘆の溜息をつく。

この酒を醸すのは、同蔵で5期目になる成子(なるこ)杜氏。大阪の酒蔵で杜氏を勤め、ご縁があって近藤酒造の杜氏に。最初は大阪と気候も言葉も違うことに戸惑ったと話す。しつこく分析しないと気が済まない性格で、吟醸は1日2回分析する。成子杜氏の緻密な管理で出来上がる酒は、地元に愛されるレギュラー酒だけに留まらない。

群馬県では初の遠心分離機を導入。1分間に3000回転する遠心力で醪をお酒と粕に分離させることによって、搾りに圧力がかからないため、洗練されたお酒が出来上がる。

「とにかく手間がかかるが、香り高くて味わいがまろやか、品のあるお酒と評価をいただいている」。「遠心分離搾り純米大吟醸 黒檜(くろび)」は、贈答品として、大手デパートでも人気が高い。

-6代目蔵元・近藤雄一郎社長-

成子杜氏は、「ここに来て驚いたことは、オーナーが、値段は気にしなくていいから、一番良い米を買いなさいと言ってくれること。だから毎年良いお米を調達できて、良いお酒が出来る機械を導入してくれる。」

どこまでも高品質を追い求めるオーナーは、6代目蔵元・近藤雄一郎社長。社長に就任して4年目の近藤氏は、「定番の赤城山からくちは昨日飲みすぎても、また夕方17時になったら飲みたくなる酒で、地元の皆さんに長年愛していただいている。地元消費が7割。スーパー、小売店、コンビニと、あらゆる場所に置いていただいている。地元はもちろんこれからも大事にしながらも、若い女性でも飲みやすいような低アルコールのお酒にも挑戦していきたい」と語る。

季節商品もバラエティに富んでいる

社長の隣で相槌を打つのは、営業の土田氏。ここに勤める前は複写機メーカーの営業で近藤酒造に出入りしていたが、いつの間にかイベントに顔を出すようになり、そしていつの間にか社員になったという、面白い経歴を持つ。近藤社長に日本酒の嗜み方を教えてもらったのだと話す。それまでは日本酒を飲む機会がなく、度数の高いお酒ばかり飲んでいたが、いまでは日本酒しか飲まないそうだ。

「なんでそれまで日本酒飲まなかったんだろうね~」と近藤社長と顔を見合わせて笑う。

-昨日飲みすぎても、また夕方17時になったら飲みたくなる酒-

 群馬県のほぼ中央部に位置する山の赤城山(あかぎやま)は、標高1828mの黒檜山(くろびやま)を最高峰とする峰々が、赤城大沼を取り囲むようにそびえる複式火山の総称である。この山のように長年地元で無双していながら、近藤社長はあくまでも気さくで、定番酒も大吟醸も、全て高品質で良いお酒でありたいと語る。

6代目蔵元・近藤雄一郎氏(中央)と、南部杜氏の成子嘉一氏(向かって右)、営業の土田稔氏(左)

ここら辺のどこを歩いても置いてあるお酒を自分が造るのかと思うと、最初はものすごいプレッシャーで恐怖すら感じたが、自分がいままでやってきたことをこなすだけと、社長の期待に応える成子杜氏。

赤城山というお酒、人に魅了され、瓶詰やラベル貼り等の造りに関わる作業をやってこそでないと、商品を売ることはできないと、裏方作業までこなす営業の土田氏。

群馬県民の心に宿る赤城山が、一つの山ではなく峰々であると知って、清酒「赤城山」もそれぞれの役割で誰もが出来る訳ではないことを、当たり前のようにやってのける精鋭達の結集で、出来上がっていると感じた。

昨日飲みすぎても、また夕方17時になったら飲みたくなる酒。

私達を運んでくれた先ほどのタクシーの運転手さんもまた、「赤城山」をキリッと冷やして、ぬる燗で、熱燗で、グビグビと飲んで飲みすぎたのにも関わらず、また今日の仕事終わりにはクイッと晩酌している事だろう。

悠然と佇む赤城の山のように広く深く、群馬の人々の心に宿り、さらに多くの人の心を掴んでいく。“赤城山無双”は終わらない。(武舍由莉)

【近藤酒造株式会社】
〒〒376-0101 群馬県みどり市大間々町大間々1002
TEL:0277-72-2221 

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