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【蔵元訪問記】蔵元訪問記/金升酒造(新潟県)
2024.12.10更新
【蔵元訪問記】藤井酒造(広島県)
広島県沿岸部のほぼ中央に位置する竹原市。石畳の続く道、モダンな町屋の一軒一軒に異なる意匠が施された「竹原格子」と呼ばれる窓。町全体がまるごとお洒落で、全国19番目の町並み保存地区として登録されているのも納得の美しさだ。
ここ竹原市は、京都の下鴨神社の荘園として誕生。江戸時代後期には製塩業、酒造業により繁栄し、当時は26軒の酒蔵があった。その中で3蔵の酒蔵が現存している。「中尾醸造」「竹鶴酒造」そして、今回お邪魔した「藤井酒造」である。
全体の約3割が生酛造りの藤井酒造
「龍勢」ブランドが主要銘柄の藤井酒造では、全量純米酒。米の味がしっかり出ている酒を造りたいという想いから、顔の見える地元の米農家と契約し、広島県で誕生した「八反錦」をはじめとした酒造好適米を使用する。生酛造りにもこだわり、全体の約3割が生酛造り。この2年以内にはゴールドやシルバーの円と龍のエンボスが描かれたラベルの龍勢ブランドは、全量生酛へ切り替えるそうだ。そうなると、仕込み全体の約半分が生酛造りになる。
時間も労力も技術も必要とされる昔ながらの技術を今なお継承するその訳を、藤井酒造五代目蔵元・藤井善文氏に伺った。
「生酛はやはり面白い。最初は獣臭のような野生の香りで、それがやがて乳酸の香りになる。20日ぐらいうんともすんとも発酵しなくて、心配になってくるけれど、じっと待っていると酵母の増殖が元気に進んでくる。速醸とは全く異なる経過をたどり、いざ搾ってみたら予想してた以上の味わいになったりする。清潔はもちろん大前提だが、完全無菌にする必要はなくて、蔵付き酵母があって、生酛で使う木桶にも元々の菌がいて、地下水にも菌がいる。菌との共生で良いものを掘り起こしていきたい」。
完全発酵の酒にこだわる理由
完全発酵にも強いこだわりが伺えた。酵母がその使命を終える最後の時まで活動を続け、米麹の力による糖を完全に酒のアルコールに変えることを完全発酵と呼ぶ。
「完全発酵型の純米酒を飲んだ時に、二日酔いしなかった。こういうお酒を造らなければダメだと思った。途中で発酵を止めてしまうと、酵母がおれはまだまだ働けるぞといっているようで」と藤井蔵元
龍勢が織り成す濃厚で、芯がしっかりとした深みのある旨味、お燗にしてさらに広がるまろやかさは、酵母に力を遺憾なく発揮させた結果なのだと、このお酒の旨味の秘密がわかった気がした。
蒸しの煙でどんな酒になるかわかる
朝一番で蒸しの作業も見せていただいた。「純米酒において、蒸しは大事な作業。蒸している最中の蒸気でどんなお酒になるかがわかる。モワモワした重い煙だと良くなくて、勢いのある軽い蒸気だと軽やかなお酒に仕上がる」と藤井蔵元は話す。この時見上げた蒸気は、軽やかで血気盛んな気配がした。
2018年7月、西日本を襲った豪雨によって、この地にも腰まで泥水が押し寄せた。浸水した部分の土壁は全て溶けたという。柱には泥水が迫ってきた痕がまだ残っていた。水害も乗り越え、先を見据える藤井蔵元の目には、蔵で見た酵母や煙と同じような、力強さが宿っていた。
龍勢・夜の帝王の蔵元 | 藤井酒造株式会社 – Ryusei Official Website (fujiishuzou.com)
【藤井酒造株式会社】
〒725-0022広島県竹原市本町3丁目4−1
TEL: 0846-22-2029
FAX: 0846-22-8241