【蔵元訪問記】伊東酒造

2023.04.22

小さな頃から酒蔵に遊びに行けば、蔵人たちに肩車されて巡回し、酒造りのレクチャーを受けていた。今は蔵元杜氏を担う伊東毅氏。麹室では裸の杜氏に迎えられ、サウナみたいに暑いよ~と言われたのを思い出す、と言う。

目の届く量を丁寧に醸す伊東酒造の酒造りについて聞くと、辛いことはあるに違いないが、何より酒造りが好きなことが伝わってきた。

モノづくりが好き

●伊東酒造の酒造りに加わったのはいつからですか?

伊東 大学卒業して翌々年に入りましたが、正式に造りの手伝いを始めたのは、26歳からです。

今45歳だから20年続けて、2年前に蔵元杜氏になりました。入った頃は父である現会長が社長でしたが、いきなり常務の肩書で、2003年から2007年までほとんど社長みたいなことやって、2008年に社長になりました。

会長は元々東京で酒販店をされてたんですね。ですから実質お一人で、酒造りから社長業までされていた?

伊東 モノづくりは元から好きなので、酒が出来上がってくるのが楽しかった。

ただ、酒って造るより育てるんですね。

最近想うのですが、我が子を育てるというより、幼稚園の先生のように、皆しっかり大人になっていくんだよと送り出せるようにする、その感覚に近いです。だからいろんな人たちのところへ行って活躍していると、嬉しくなります。

現場を指揮する伊東蔵元

試行錯誤の酒造り

●酒造りは、農大で学ばれたんですか?

伊東 農大ですが、醸造科ではありません。

大学3年のときから造りには入って、原村の杜氏さんの元でやってましたが、具体的には教わってはいません。ここをやれとは言いますが、どうやるのかは教えてくれない。

急に麹室やれと言われても手探りで、前年の経過簿を見ながら何とかやっても、こういうもんじゃないと否定される。造りに入って3年くらいたったら、わかるようになってはきました。その頃の造りは6人で、酒は今よりはるかに多く造ってました。

「日曜日はしっかり蔵人が休める体制にするまで3年かかりました。
でも造りに入ると、僕は休みないです」と蔵元杜氏・伊東毅氏

●お蔵元ご自身の試行錯誤の末に創り上げたのが今の「横笛」なんですね。

伊東 元々あった味を守ろうとは思いませんでした。今は入った時点の味はないです。三造酒のような甘いお酒は造りません。

売れ筋の「〆」(けじめ)は、形にするまで4年かかりました。どこまで辛くなるんだろうと試していたら、味もそっけもないものになってしまって、次の年は味を出す酒をと仕込み、プラス3ぐらいになった。3年目は気温が低くなり過ぎて、一気に温度が下がってしまった。

もとから温度を上ずにいたら出来上がってきました!友人が、結婚するときにお嫁さんの実家に「〆」を持っていったそうです。そういうケジメのつけかたもあるんですね(笑)。

●特別な思い入れのあるお酒ってありますか?

伊東 大事に育てているのは「大寒仕込」と「純米吟醸」です。「大寒仕込」は顔色が面白い。飲んでると最初のあたりは、強いんですが、そのまま飲んでるとおとなしくなっていく。

最初吠えてた犬がキュンキュン言うような・・。「美山錦」で造った純吟は私が好きな味。味と香りのバランスがいい。バランスがいいんで、お酒だけで飲めます。

これは年末に仕込みを終わらせるようにするのですが、温度差がある時期なので、一番気を使う。精神的に疲れます。より手をかけるというのもあって一番かわいいかもしれません。

酒造りも営業も

●造りの期間以外は東京で営業されてるんですか。

伊東 東京で伊東酒販を構えていますので、そこで料飲店さんに営業します。伊東酒造のお酒だけではなく他のメーカーのものも販売します。

全国のお酒について聞かれても答えられるようにしてきました。営業先のお店を訪ねて、飲んだ後にセールスです。30歳ぐらいまでは3日寝なくても仕事になった。楽しかったので何とかできちゃいました。

人と話すのが好きで、名前も仕事も知らない友人がたくさんいます。ずっと話してて奢ってもいただき、どこかで見たことある顔だなと思ってたら、超有名人だったなんてこともあります。

●もう間もなく酒造りも終了だと思いますが、今期一番嬉しかったことは?

伊東 今年最初に搾った「しらかば錦」の「春穂の香」がすごく面白く美味しくできたことです。飲み口、あたりもいいけど、「しらかば錦」らしい癖のあるお酒なんです。甘いというより、重みをもってお腹に入っていく感覚がしっかりあるんです。

●お酒に合わせる料理などはされますか?

伊東 得意料理はイタリアン、中華全般。中華は楽しくて昔から作ってます。四川料理はうちの「古道」が合います。麻婆豆腐やあまり辛くしすぎないエビちりとか。

こんなのも酒に合うかなって料理してたら、合わないものなんてないのではないかと・・・。

伊東酒造内にあるショップ
利き酒ができる
諏訪5蔵の酒蔵巡りはいつでもできる

●諏訪5蔵の酒蔵巡りはいつでもできるのですね。

伊東 伊東酒造含め、5蔵が旧甲州街道沿いにあります。ほとんど同じ環境下、水も同じなのに、それぞれの酒の味わいが全く違う。仲良く競えるよきライバル同士です。

3、伊東酒造に併設されている伊東近代美術館
(4月から12月末までは休館)
「祖父・伊東充と親交のあった日本画家・伊東深水や彫刻家・平櫛田中をはじめ、横山大観、川合玉堂、山口蓬春、奥村土牛、上村松篁、篠原昭登などの作品を所蔵。「祖父が友人から飲み代の代わりに受け取った絵に、後々価値がついたという貴重なものもあります」と蔵元。

「横笛」のあるお薦めの店を聞くと、何店もの店の名前が蔵元から飛び出してきた。造って、育てて、送り出し、送った先まで世話をする。『平家物語』にある悲恋物語の登場人物として語られた「横笛」の名が、『大銘酒 横笛』として末永く、こんなに大切に生かされている。(竹林)

【伊東酒造】
〒392-0004長野県諏訪市諏訪2-3-62
TEL:0266-52-0108
HP:https://www.yokobue.co.jp

*5月のお蔵元を囲む会(2023年5月7日(日)17:00〜19:00)には蔵元杜氏・伊東毅氏がいらっしゃいます。↓

過去記事一覧

【蔵元訪問記】蔵元訪問記 番外編 伊東酒造

2024.03.29更新

【蔵元訪問記】平六醸造(ひらろくじょうぞう)

2024.02.27更新

【蔵元訪問記】名手酒造店

2024.01.30更新

【蔵元訪問記】笹一酒造

2023.12.29更新

【蔵元訪問記】内ケ崎酒造店

2023.11.17更新

【蔵元訪問記】宇都宮酒造

2023.10.27更新

【蔵元訪問記】越後酒造場

2023.09.02更新

【蔵元訪問記】笹祝酒造

2023.07.18更新

【蔵元訪問記】石本酒造

2023.06.10更新

【蔵元訪問記】田村酒造場

2023.05.23更新

【蔵元訪問記】美寿々酒造

2023.03.10更新

【蔵元訪問記】権田酒造(埼玉県)

2023.02.15更新

【蔵元訪問記】伊藤酒造(三重県)

2023.02.12更新

【蔵元訪問記】信州銘醸(長野県)

2023.01.08更新

【蔵元訪問記】王紋酒造(新潟県)

2022.11.12更新

【蔵元訪問記】菊水酒造(新潟県)

2022.08.15更新

【蔵元訪問記】末廣酒造(福島県)

2022.06.26更新

【蔵元訪問記】近藤酒造(群馬県)

2022.06.15更新

【蔵元訪問記】大利根酒造(群馬県)

2022.05.15更新

【蔵元訪問記】塩川酒造(新潟県) 

2022.05.01更新

【蔵元訪問記】 明利酒類(茨城県)

2022.04.15更新

【蔵元訪問記】無法松酒造(福岡県)

2022.02.09更新

【蔵元訪問記】土井酒造場(静岡県)

2022.02.04更新

【蔵元訪問記】藤井酒造(広島県) 

2022.02.04更新

【蔵元訪問記】田村酒造場(東京都)

2022.02.02更新

【蔵元訪問記】猪又酒造(新潟県)  

2022.02.02更新