【蔵元訪問記】名手酒造店

2024.01.30

和歌山県海南市にある酒蔵から、幅1メートルほどの小路を通り、徒歩5分ほど。突き当りの階段を上ると中言(なかごと)神社がある。古代この付近は黒い牛の形をした岩があり、海の満ち引きにより、姿を現したり消えたり。黒牛潟と呼ばれていた。そんな風景を詠ったものが万葉集に納められている。名手酒造店の主要銘柄「黒牛」はここから命名。

   

境内の井戸は「万葉黒牛の水」として、紀州名水50選のひとつとされる。名手酒造店は、ここと同じ水脈の井戸水を精密濾過して仕込水にする。分析すると弱硬水で、幅と旨味のある酒の味わいの源となる。「黒牛」純米大吟醸、「黒牛」純米吟醸、環山黒牛 (かんざん-)純米大吟醸、環山黒牛 (かんざん-)純米吟醸、雄町「黒牛 」純米吟醸等「黒牛」を中心に「一掴」大吟醸、「菊御代」上撰を加え、12アイテムの品質重視の旨酒を醸造する名手酒造店。当主・名手孝和氏にお話しを伺った。

商品一覧 | 株式会社名手酒造店 (kuroushi.co.jp)


国内出荷の6割は地元で,その95%が「黒牛」純米酒

●名手蔵元、本日はお忙しい中、ありがとうございます。昨日、和歌山ラーメン店に行きました。豚骨を煮込んで熟成させたコクのあるラーメンと、「黒牛純米酒」が進みました。一般的には地域に根付いているのは普通酒と言われますが、和歌山では「黒牛」純米が定着している。焼鳥にも「黒牛」が定番ですね。

 うちは随分前から「純米酒」に切り替えました。15年前位から、国内出荷の6割は地元でその95%が「黒牛」純米酒です。首都圏は2割位で関西が1割強、他海外への輸出です。

●「黒牛」純米はほのかに吟醸香がある。さらりと飲めて、でも旨味がある。山田錦を使っているからですか?

 麹米には必ず「山田錦」を使うのが黒牛のコンセプトです。「山田錦」を使うと力強い、しっかりしてキレがよく、時間を置くと良くなっていき、へたらないお酒になります。仕入れる米の過半数が「山田錦」です。和歌山、兵庫、滋賀、岡山、鳥取、徳島等の県から仕入れます。純米から大吟醸まで、この米はどこに使うか、等級と産地で判断して杜氏と相談して決めていきます。他、「雄町」と「五百万石」を使います。

洗米の様子。
蔵人の男衆を率いる杜氏歴15年の岡井勝彦さん(47歳)。「酒のツラを見ながら追い水しています。壁の掃除にもなりますが、前半に水いれて酵母が働きやすくしたり、後半はアルコールが出過ぎたりしたら加えます。今年は米が溶けにくいので、最初は水を少な目にしておいて後からふやしていきます。最初入れすぎると発酵がすすみ、米が溶ける前に発酵してしまいます」

歴史、文化も含めた風土こそが個性

●いずれの農家にも直接出向いて契約されてきた。大変な時間だったと思いますが、それで農家との良い関係が築かれた。米の輸送中の排出CO2削減にも取り組んでいらっしゃるのですね?

 自社精米していたのですが、米産地から藏への移送途中で精米することにしました。白米を運ぶことで、運搬量、排出ガス量が抑制されます。

 最近は、地元の米で醸造することで個性を表現する風潮がありますが、うちは帆掛け船で原料米を運んできた歴史があります。

酒蔵内

仕込水、藏の立地、自然環境、歴史、文化も含めた風土こそが個性ではないでしょうか。当社は、地元の米も使用しますが、酒米は近畿やその周辺の範囲で最良のものを求めていく方針で、これも名手酒造店の地域性と個性です。ワインから来ている「テロワール」を安易に日本酒にあてはめるべきではないかと・・・。

輸出先はアメリカ、台湾、上海、韓国等

●海外はよく行かれるのですか?

2ヵ月に1回の割合で出かけています。輸出先はアメリカ、台湾、上海、韓国等です。海外も最初は香り系のお酒を好むのですが、だんだん飲み飽きてきてもうちょっと落ち着いたやつがいいとなる。日本の酒飲みもそう言うじゃない。アメリカも韓国も同じ。これ大発見で、全世界で酒飲みの感覚は共通なんですね。今後30年かけて海外出荷を3割までには持っていきたいと考えています。

瓶火入れを機械に任せられるパストライザー。風味が逃げず、衛生管理も行き届く。
令和5年に入れた新タンク。温度制御が可能

 ロスの居酒屋で飲んだユーチューバーが「黒牛」純米酒を取り上げてくれて、物凄い量の注文がアメリカから来たことがありました。こういったことは今まで何もやってなかったら生れなかった機会ですから、地道にコツコツと続けていきます。

ブランド力を高め日本酒をもっと世界へ

●蔵内を拝見して、「黒牛」が美味しくなる理由が随所に感じられました。新事務所、冷蔵庫・資材倉庫付き出荷場が昨年の6月に竣工された。動線がとてもスムーズで、働き方改革につながると思います。今後の展望は。

 冷蔵庫は5度、0度、マイナス10度を用意し、酒質によって分けて貯蔵します。前面の県道海南岩出線拡幅のためでしたが、作業効率は向上しました。

蔵元名手孝和氏と常務の名手佐起枝さん
新社屋 

製造石数は1600石で、これを維持しつつブランド力を高める。目標は、大中小ありますよ。小は自分の会社をなんとかする。中は和歌山の酒蔵をなんとかする。大は日本酒を世界へもっと浸透させる。そんなところです。

紀州伝統の國酒「黒牛」では着々と未来に築くべき青写真が描かれているようですね。本日はありがとうございました 竹林ゆうこ

【名手酒造店】和歌山県海南市846 TEL:073-482-1115

HP:株式会社名手酒造店 (kuroushi.co.jp)

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