【蔵元訪問記】平六醸造(ひらろくじょうぞう)

2024.02.27

卒論は「日本酒」をテーマにしました!と醸造学科でもない彼が、明治大学・商学部の視点で書いた卒論を見せてくれたことがあった。

あれから10年、醸造家として腕を磨いた平井佑樹氏は、卒論は浅知恵で書きましたと笑う。理想と現実のギャップに苦しみながらも多くを経験し、昨年、平井氏は「平六醸造」を立ち上げる。250年の間祖先が酒造りを続けていた日詰平井邸が、その場となった。

大学卒業後に戻った実家の「菊の司酒造」は、経営難から他者へ譲渡。30歳で退職。その1年後の平六醸造開設だ。

SNSで発信する平井氏の言葉は時に熱を帯び、時に冷静に現状を伝えた。

「理念や哲学がないお酒や商品を僕は造りたくなくて、それを共有できるお客さんをどれだけ見つけるかが、大事だと思います」の言葉通り、クラウドファンディングでは全国から470人が支援。これから支援者へ、紫波の風土を伝えるクラフト酒が届けられる。

たった一人で、プレゼン資料を作成し、お客様をもてなし、
取材を受ける株式会社平六醸造代表取締役・平井佑樹氏

「現代によみがえれ日詰平井邸」と言い聞かせ

●「日詰平井邸」蔵開放のご案内をいただいて、飛んできました。大学卒業してすぐご実家の酒蔵へ?激動の10年でしたね。

はい、控えめに言って激動でした。在学中から日本酒の勉強を始め、酒の感想をブログに書いて酒蔵の人と交流を持ち、蔵見学にも行きました。

酒造りをしている人たちが恰好よく見えた。小さい頃蔵の中で遊んでいた思い出が浮かび、実家の力になりたいと思って卒業後すぐに実家に入りました。

●ご実感の菊の司酒造では最初から酒造りを?

酒造り、広報、営業や全部やっていく中で、特に力を入れたのは、酒の品質向上。様々な方にご指導いただき、結果、在籍中に全国新酒鑑評会での金賞受賞、International Wine Challengeではゴールド受賞、岩手県で主席いただきました。

●菊の司酒造退職後の計画はあったのですか?

日本酒製造の免許はきっと降りないし、もうできないだろうと思っていました。他の酒蔵からのお誘いもありましたが。

一方で、国指定重要文化財の「平井邸」が平井家の課題だったので、この「平井邸」で何ができるか考えました。6代目が安永年間(1772年)に酒造業を始めた所です。

1921(大正10)年に完成した日詰平井邸。2016年には国指定重要文化財に指定された。レンガ壁に大正ガラスが張り巡らされ、屋根はトラス式と和洋折衷の独特な建造物。

「現代によみがえれ日詰平井邸」と自分にも言い聞かせ、人にも伝えていきました。醸造業と住居のふたつの場所を活かしたい。

住居とは蔵元が住むのではなく、訪れる人たちにコーヒーや食事を提供したり、ヨガをしたり、音楽を聴いたり、プラモデルを作ったり、絵本の読み聞かせ、フォトウェディングの会場にしてもいい。家の様に平井邸で過ごして、お酒を飲まない人も楽しむ「まちの家」。

コーヒーやクッキーを販売する協力者

さらに祖先から継承した醸造というテーマをどう伝えるか、考えました。

クラフトサケで醸造技術を表現したい

最初は他からお酒を買って呑み比べを提供しました。そのうちに平井邸に訪れるお客さまや、昔から仲良くしていただいている酒蔵さんや酒販店さんから酒を造ったらいいのにと言われ・・・。

文化財のため建造物を改造することはできず、家の中に建てるハウスインハウス。酒蔵から譲り受けたタンクが並ぶ。

やがてクラフトサケを知り、自分でやってきた醸造の技術とかビジョンを表現できるのではないかと思い立ちました。

●そこで蘇ったのが平六醸造(ひらろくじょうぞう)なんですね。

完全に一人でやるというシミュレーションをして、設備を作りました。米を蒸すのはマックスで40k迄。米洗いは8kずつ手洗い。酒蔵ではなく醸造所、ほぼ工房に近いですね。

麹室は、泊らないでも麹米ができるように、部屋全体を密閉して断熱。温度の上がり方を整えて、キープします。小さいステンレスタンク10本で、1仕込み四合瓶で450本位を造ります。

蔵開きに訪れて見学する人々

●クラフトサケとは?

日本酒の製法をベースに多彩な副原料を組み合わせて発酵させた新しい日本酒です。酒税法では日本酒ではなくて「その他の醸造酒」という分類になります。

造り手の想いとか、日本酒へのリスペクトは忘れたくないので、僕は新しい日本酒ですと言うようにしています。

香り豊かでジューシーな味わいが特徴

副原料は、一番大切なものとして選んだのが、もち米の発芽玄米です。発芽させることで、副原料として認められる。もち米は紫波町の特産品です。

これを全体の1パーセントだけ使いますが、めちゃめちゃ力があって、ほどよく酵母が元気になり、酵母が出す吟醸香がぐんと増えます。4月からの試験醸造では、同じように造って発芽玄米を使わない酒と比べると吟醸香が約倍です。香りが豊かでジューシーな味わいが僕が造るクラフトサケの特徴になります。

原料米は、岩手県産を使います。自分自身も酒米栽培に挑戦しています。紫波特産のぶどうや洋ナシなども副原料にして、紫波の風土に根ざした酒造りをします。

●平井邸で、一株の酵母が見つかった。分析を進めているが、清酒ができる酵母らしい。平井氏はこの酵母を「あかつき酵母」と名付け、超楽しみと「あかつき計画」なるものを画策。

平井氏のパワーは、酵母までをも目覚めさせた! (竹林ゆうこ)               

★取材から2ヵ月後、平井氏から「ついに初搾り!」というニュースが入ってきた。ご家族の力を借りて、クラファンリターン第一弾「無涯‐むがい‐」の出荷準備も完了とのこと。

(商品ラインナップ)

米と米麹で仕込んだ醪の一部に、紫波のもち発芽玄米麹を加え発酵させる「Re:vive(リヴァイブ)」は「復活」を意味する。低精白米使用の「空我-くうが-」と高精白米使用の「無涯-むがい-」


紫波特産の副原料を使用して出来上がる醸造酒は「layer(層)」と名付け、リキュールのように、できたお酒に副原料を合わせるのではなく、醸造段階で一緒に発酵させることで、幾層にも重なり合った奥行きのある味わいを表現する。

【平六醸造】岩手県紫波郡紫波町日詰字郡山駅246番地 TEL:080-4720-4802

HP:現代によみがえれ、日詰平井邸醸造所 (hiraroku.com)

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