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【蔵元訪問記】蔵元訪問記/金升酒造(新潟県)
2024.12.10更新
【蔵元訪問記】蔵元訪問記 奥の松醸造元
2020年4月から施行された食品表示法の改正に伴い、奥の松商品の製造者表示が次のように変更となる。
■奥の松醸造元 製造者:東日本酒造協業組合(福島県二本松市休石167番地)/加工者:奥の松酒造株式会社(福島県二本松市長命69番地)
ここに、「奥の松」が歩んできた歴史があった。昭和40年代、国の中小企業近代化政策で、中小企業同士の「生産・販売の集約」が促進され、奥の松酒造は昭和49年に近隣の醸造元数社と共に共同組合を設立。現在の「東日本酒造協業組合」が誕生。
時とともに、奥の松以外の醸造元は休止となり、奥の松酒造の創業者・遊佐家が一手に酒造りを担い、継続していく。現在は19代当主である遊佐丈治氏が奥の松酒造株式会社の代表取締役と東日本協業組合の代表理事を務める。
「奥の松」の酒は東日本酒造協業組合で醸造、奥の松酒造にて業界ではいち早いパストライザーによる火入れ殺菌や、瓶詰め作業を行い、日本各地へ出荷され、やがては世界進出にも成功していった。
醸造を担うのは、厚生労働大臣より「現代の名工」と表彰された殿川慶一氏。東日本酒造協業組合理事であり、今期で52期目として指揮を執る。全国新酒鑑評会金賞を14回連続受賞、金賞受賞数は現役杜氏で最多。IWC2018では『世界一』の称号を得る。
「昔は毎朝7時に出社して一番遅く帰るという日々でしたし、帰れない日もありました」と穏やかな笑顔で語る殿川氏に、今まで、そしてこれからの想いを伺った。
甘くて、太くてキレがいい軽いお酒
●連続で14回の「全国新酒鑑評会」金賞受賞というのは快挙です。素人の単純な質問ですが、受賞のコツのようなものはありますか?
殿川 米が天然ものですから、その年によって違います。その情報をキャッチして、まず米はどのぐらい浸漬するか、から始まります。あとは微調整していくしかありません。金賞を目指す酒は的がだいたい決まっているので、そこに向けていきます。甘くて、太くてキレがいい軽いお酒です。尖った感じでなくてふっくらしてる。
●杜氏さんになられて金賞を外したのは1回だけだと聞きましたが。
殿川 杜氏になって25年ですが、外れたのは10年目の1回。23回は入ってます。
スムーズに飲める酒が「奥の松」、それよりボリュームがある酒が鑑評会に入りやすい。ただ、鑑評会に出す酒も一般に流通する酒も、同じ浸漬タンクを使いますし、麹を造る機械も搾る機械も同じ。もちろん、できるだけいい機械を使っています。そうすることで、良いお酒を多くの方に手軽に飲んでいただける。
好きになるのが一番じゃないですか
●全国新酒鑑評会の目的は、醸造技術の向上にあります。高評価の受賞酒の技を、市販酒にダイレクトに生かされているのは、まさにその目的にかなっていますね。杜氏は天職だと思われますか?
殿川 そうですね~好きになりましたから。好きになるのが一番じゃないですか?
私の実家は麦焼酎を造っています。今は弟が継いでいます。
農大に入って、その頃醸造科にいらした小泉武夫さんにご紹介いただいて「奥の松」に入社しました。実家では小さい頃は日本酒も造っていたので、日本酒造りに違和感はなかったです。こちらで結婚もしたので、ずっと福島で、今は74歳です。
最初入ったときは好きかどうかもわからず、実際は学校で習ったのとも違いました。勤続52年の間に酒造りが好きになっていった。酒造りは変化していくので、それが面白い。今は泡なしが多いですが、もろみの変化を見るのは面白かったです。
奥の松の酒のスタイルはスムーズに飲める酒
●殿川杜氏ならではの試みは?
殿川 最初は南部杜氏や越後杜氏さんからいろいろ学びましたが、そのうち自分で酵母をブレンドしたり、浸漬時間を工夫したり、瓶詰めの容器はどういうのがいいか‥など検証していきました。以前一升瓶でやっていたのを、500mlで熱殺菌をしたら割れないということがわかって今のR瓶ができました。予想が外れれば大失敗です。でも外れても戻していく。そういった繰り返しです。
日本酒は賞味期限がないので、そこが魅力でもあります。奥の松の酒のスタイルはまずは「スムーズに飲める酒」です。そこからバリエーションを出していく。少しとがったり、でっぱったりと・・・。
無濾過生原酒は人気ですが、時間がたつとクセが出てくる。流通がしっかりしていて、飲む段階で生老ねを気にしなければいいですが、造り手としては、いつもいい状態で届けたいので、「奥の松」では火入れの酒が多い。
●今後の展望をお聞かせください。
殿川 今、Honeur(ハニール)がいいです。ミード(蜂蜜酒)ですが、酸が多かったのが、古酒になって、酸が枯れてまろやかになった。これも挑戦でしたが、低アルコール酒や超プレミアム酒、それとジンも挑戦したいと思っています。「奥の松」なので、松の木を使おうかとか、いろいろ考えています。
いろんな商品、酒を造って、なんでもダメと言わないでまずは造ってみたいです。
●殿川氏を支えるのは20~30代の社員の方々。意欲旺盛な天才杜氏から、学ぶことは無限大だ。
奥の松醸造元 製造者:東日本酒造協業組合(福島県二本松市休石167番地)/ 加工者:奥の松酒造株式会社(福島県二本松市長命69番地)