全国各地「蔵の味」を求めて旅をする

2026.03.26

「末廣」「玄宰」

日本酒をこよなく愛する呑む文筆家が、地元でしか醸せない唯一無二の「蔵の味」 を求めて全国各地の酒蔵へ旅する連載。
第 5 回目は、福島県会津若松市で「末廣」と「玄宰」を醸造する末廣酒造へ伺いました。

<プロローグ>

会津藩の御用酒を造る酒蔵の本家から次男の新城包裕(かねひろ)が独立し、その名を新たに当主・新城猪之吉として、江戸末期の1850年に創業した末廣酒造。その歴史を紐解くと、昔は酒造業だけではなく、水油(椿油などの髪油)や漆器、計量器の製造など多角的な事業で成功を収めた蔵として地元では知られている。

蔵に入ると出迎えてくれる「末廣」の菰樽

さらに、末廣酒造は会津藩主・松平容保や新撰組などが贔屓にし、新撰組などが愛飲し、世界的細菌学者である福島出身の野口英世とは家族ぐるみで親交があったなど、これぞ地元の名士といった華やかな逸話が目立つのが末廣酒造の特徴だろう。しかし、1953年から酒造業に一本化して以降、着実に磨きをかけてきた酒質を、歴代のどの当主よりも進化させようと奮闘するのが現蔵元の8代目だった。

末廣酒造(嘉永蔵)

ハッとするほど進化した末廣酒造の酒

 末廣酒造の酒が変わった。そうはっきりと感じたのは数年前。それまでのやや重たい酒質から脱皮し、躍動感があるみずみずしい味わいに様変わりしていたのだ。

 特に末廣酒造の「末廣」と同等の看板銘柄「玄宰」に惹かれた。「玄宰」とは、会津の発展に貢献した会津藩の家老・田中玄宰に由来する昭和時代に生まれた銘柄で、今は特別純米や特上などのラインナップもあるが、当初は全国新酒鑑評会に出品する酒と同等の製法を用いて造る大吟醸のみに与えられた名前である。

8代目が自ら造る特約店限定の「玄宰」は、大吟醸のほか特別純米や特上などがある。フレッシュな口当たりとクリアな酸味が特徴。飲めば気分が上がる!

 筆者が最初にこの酒を飲んだのは20年以上前だが、香りを生かしたいかにも大吟醸といったクラシックな味わいで、正直に言葉にすると可もなく不可もない薄い印象だったと記憶している。それがここにきてハッとするほど酒質が進化し、思わず前のめりでその理由を突き止めると、2023年に蔵を継いだ8代目である新城大輝さんの存在が浮かび上がった。

まだ35歳の若手蔵元・8代目の新城大輝さん

ラインナップを絞り新たな酒質に思い切って挑戦する

 8代目は一般大学を卒業し、スーパーでの勤務を経て広島の酒類総合研究所で酒造りを学び、蔵に戻ったのは2017年。まだ普通酒が製造量全体の約7割の時代である。 

地元の人に支持されてきたクラシックなラベルの普通酒

「当時は普通酒がメインでほとんどが地元で消費されていましたが、PB商品も含めるとその他のアイテムがとんでもない数があり、まずはラインナップを整理し絞るところから考えました。

結果的に「末廣」と「玄宰」の二本柱に集約しようとしたのですが、親父(先代)は、いろんな商品を造りたい、あるいはPB商品の依頼は全て受けたい人だったので、意見が合わずものすごく対立しました。でも、自分が造りたい末廣酒造の酒を追求するためには、銘柄をシンプルにする必要がありました」

 さらに、ほぼ稼働していなかった会津若松の中心地にある「嘉永蔵」を再生。主に蔵見学などの観光用として機能していた製造場に設備投資し、ここでは自らが杜氏となり「玄宰」造りをスタートした。

蔵元が再生させた「嘉永蔵」の製造場。
どこもかしこもピカピカだった

代々の蔵元がノータッチだった酒造りの現場へ飛び込むことになるのだが、これを機に代々受け継いできた酒質も一新。自分の好きな味を追求しようと決めた。

蔵に併設されたショップ。ここでしか買えない酒やグッズも
蔵見学で使われる酒米など。日本酒について気軽に学べるのがうれしい

「自分が好きなのは、例えば「十四代」の本丸(本醸造)や「みむろ杉」の山田錦を使った酒のようなクオリティが高い銘柄です。なので、そこをベースに酒質を模索し、従来の末廣酒造のクラシックなタイプではないフレッシュな酒に思い切って挑戦しようと決めました。これからの日本酒市場で生き残っていくためには、酒質を変えるしかないと思ったんです」

大正時代から続けてきた山廃造りを継承

 一方で代表銘柄の「末廣」は普通酒を減らし、純米酒や吟醸酒など特定名称の割合を全体の約6割まで増やした。この酒は以前から杜氏を務めている津佐幸明さんが中心となり、美里町にあるもう一つの製造場「博士蔵」で醸しているのだが、とりわけ力を入れているのが、山廃の酒である。

「末廣」を造る「博士蔵」は、「嘉永蔵」とは違いまるで工場のような広い製造場

実は、末廣酒造は全国でも先駆けて大正時代から山廃造りを導入した蔵なのだが、特に山廃純米酒は地元民に根強く支持されている「末廣」の顔だ。

「この酒は、燗酒にしたくなるような落ち着いた食中酒タイプです。私が好きな酒を追求した「玄宰」とは真逆の酒質ですが、山廃酒は末廣酒造にとって歴史的に考えても大事な存在ですし、ありがたいことに地元の人たちがずっと飲んでくれている酒なので、これからは普通酒に替わる定番酒として受け継いでいきたい。ただし同じ味を造るのではなく、「玄宰」と同じように酒質は常にブラッシュアップさせていきます」

福島に収まらないほどのおいしい酒を目指す

 8代目が刷新した「玄宰」そして「末廣」ともに、他にはない確固たる酒質を築くのはまだこれからだが、「個性の確立も大事ですが、自分にとっては酒のクオリティを高めていくことの方が重要です。徹底的に品質を追求していきたい」と言う。

 その決意はラベルからもにじみ出る。

「昔の酒と差別化するためにラベルを変えようと思ったこともありましたが、いろいろなデザインをいくら考えてもしっくりこなくて。やっぱり従来からのクラシックなラベルが一番だなと気がつきました。それに、酒の見た目をあれこれ考えるよりも、酒質のおいしさを追求するのが最優先だと思ったんです。とにかく質の高い酒を目指し、いずれは福島に収まらないほどのおいしい酒を造るのが目標です」

 そう、彼はしっかりした口調で語ってくれた。

末廣酒造(嘉永蔵)

福島県会津若松市日新町12-38 /TEL0242-27-0002

<筆者プロフィール> 

山内聖子(呑む文筆家・唎酒師)

1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。22歳で飲んだひと口の日本酒がきっかけでライターの道へ。駆け出しの頃は浜松町時代の名酒センターでバイトしたことも。現在は酒にまつわることについて各媒体で執筆中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』『夜ふけの酒評 愛と独断の日本酒厳選50』『日本酒呑んで旅ゆけば』(共にイーストプレス)、『酒どころを旅する』(イカロス出版)、『BARレモン・ハート意外に知らない酒の基本知識』(双葉社)など。

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