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【廣戸川】
2026.06.24更新
【四季桜】
全国各地「蔵の味」を求めて旅をする
日本酒をこよなく愛する呑む文筆家が、地元でしか醸せない唯一無二の「蔵の味」を求めて全国各地の酒蔵へ旅する連載「蔵の味」。第7回目は、栃木県の宇都宮にある「四季桜」を造る宇都宮酒造へ伺いました。

「四季桜」宇都宮酒造
筆者にとって栃木の地酒といえば、真っ先に思い浮かぶのが名酒センターでも定番の「四季桜」である。栃木を旅していると酒の売り場や酒場などそこかしこで目にする機会が多く、それは地酒として地元民に愛飲されている何よりの証拠だろう。

栃木は多様な日本酒の産地だが、「四季桜」はその中でも中庸な印象で、新しいタイプの味にも古めかしい味にも属さない、ニュートラルな酒質が特徴。特に桜ラベルの普通酒や本醸造、純米酒などがそうで、やわらかい甘みとキレ味のバランスが絶妙な、飽きない味わいが魅力だ。


合わせる料理も選ばず、特に素朴な家庭料理、例えば冷奴に湯豆腐、おひたし、焼き魚、煮物、地元名産の餃子など、日本の食卓に上がるものを引き立てる万能な日常酒である。今回は、そんな「四季桜」を造る7代目の今井昌平さんに話を伺った。
全国でも先駆けて地域に根ざした日本酒造りを行う
創業明治4年(1871)の宇都宮酒造は、早くから地元で育てた酒米を使った日本酒造りに力を入れ、地域に根ざした日本酒の味を確立してきた。確立を目指した第一歩は、添加物で増量した三倍増醸酒が一般的だった昭和47年である。
7代目の今井昌平さんは言う。

「先代の父・源一郎が昭和47年に柳田酒米研究会を立ち上げ、自社田で五百万石を栽培したのがきっかけです。今は自社田を持つ酒蔵は少なくありませんが、当時は全国でも先駆けだったのではないでしょうか。三増酒全盛の時代でも、父は安価な日本酒で儲けに走るのではなく、いい地酒を造ろうという探究心と熱意は強かったと思います」

そんな先代の思いを7代目が最も踏襲しているのが、桜ラベルシリーズ(普通酒・本醸造・純米酒)である。口当たりはやわらかく、舌に転がるように甘みが広がるが、もたつかずスッと消える後口のよさが持ち味。

冷やしてもいいが常温でもよく、熱めに燗しても味崩れがないなど、どんな温度帯でも楽しめるオールマイティな日常酒で、今も宇都宮酒造が造る日本酒全体の約6割り以上を担う、地元で長く支持されている地酒である。
亡き父の面影を頼りに「四季桜」を受け継ぐ
「父からは確立した四季桜の味を守ってほしい、と直接言われたことはありません。その言葉を聞く間もなく父が亡くなった、ということもありますが」と蔵元。実は、先代が亡くなったのは彼がまだ13歳だった。「なので、私は酒蔵の仕事をする父の背中をちゃんと見たことがないんですよ」と言う。



それでも、蔵を継ぐ後継者として蔵元いわく「暗黙の了解のような流れで」日本酒造りを理論的に学べる東京農業大学の小中高と進学。当時はそこまで酒蔵業に気持ちが向いてなかったというが、大学へ進学し、同期の酒蔵の後継ぎ仲間ができたことで家業に対する意識が劇的に変わったという。
「蔵を継ぐ仲間ができたことで、日本酒はいい業界なのだと気がつきました。みんなの日本酒を学ぼうという頑張りに、すごく触発されましたね」
そして、卒業後は先代と親交があった東京の酒販店「神田和泉屋」の紹介で、熊本の日本酒「香露」へ。3年間、冬季に酒造りを学び、夏は栃木の地酒酒屋「山仁酒店」で働くという修行を重ねた。
「修行時代にお世話になった父を知る方々から、父がどれだけ日本酒に対して熱い思いを持っていたかなど、色々なことを教わりました。その言い伝えを頼りに、父の思いを自分なりに感じ、自然にそれを受け継いでいこうと思うことができたんです」
今の苦労よりもやがての喜びを優先。時代に流されない四季桜の味を造る
現在、宇都宮酒造で造るのは、先代から受け継いだ定番の「四季桜」桜シリーズを含めた、27種類もの多彩なラインナップである。穏やかな吟醸香が美しい大吟醸「万葉聖」や、先代が立ち上げたふくよかな旨みの「花宝」、蔵元の名前を冠した「今井昌平」、春夏秋冬に合わせた酒質の季節シリーズ酒などが挙げられるが、これら普通酒から高級酒までを、すべて手を抜かずに造るのが蔵元の信念だ。

「私は2023年まで11年間杜氏を務め、3年前からは玉山和良杜氏にバトンタッチしましたが、普通酒から丁寧に造るという私の思いがブレることはありません。手間はかかりますが、今の苦労よりやがてのお客さんの喜びが大切なので、苦労はいくらしてもいいんですよ」
ブレないのは、理想とする酒質もしかり。

「今は毎年のように新しいタイプの日本酒が出てきますが、時代の流れには乗っかりたくないですね。そういう流行の酒は他の酒蔵にお任せし、私は四季桜の味をしっかり造っていきたいです」
蔵元はいかにもそうするのが当然といった口調で淡々と語っていた。
<著者プロフィール>呑む文筆家・唎酒師/山内聖子/1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。22歳で飲んだひと口の日本酒がきっかけでライターの道へ。駆け出しの頃は浜松町時代の名酒センターでバイトしたことも。現在は酒にまつわることについて各媒体で執筆中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』『夜ふけの酒評 愛と独断の日本酒厳選50』『日本酒呑んで旅ゆけば』(共にイーストプレス)、『酒どころを旅する』(イカロス出版)、『BARレモン・ハート意外に知らない酒の基本知識』(双葉社)など。Instagram


















































