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【蔵元訪問記】蔵元訪問記/金升酒造(新潟県)
2024.12.10更新
【蔵元訪問記】土井酒造場(静岡県)
静岡県掛川市。代表銘柄「開運」で親しまれる土井酒造場。
特に、招福熊手のラベルを巻いた「開運祝酒(特別本醸造)」は、ハレの日や贈答品の祝い酒として確固たる地位を築いています。
この記事では、開運の美味しさの秘密について、蔵の歴史からひも解いております。
祝い酒の金字塔、代表銘柄「開運」
静岡県西部に位置する掛川市は、日照時間が長く、雪もほとんど降ることのない年間を通じて温暖な地域で、全国でトップクラスの茶葉の生産地でもあります。交通の便にも恵まれ、新幹線の停車駅でもあるJR掛川駅から車でおよそ15分。風光明媚で自然豊かなエリアに土井酒造場があります。酒蔵の正面には立派な薬医門があり、歴史的な風格を放っていました。
創業は明治5年 来年150周年
土井酒造場の創業は明治5年(1872年)で来年150周年を迎えます。代表銘柄は「開運」。この縁起の良い名前は、創業時に、地元の旧・城東郡小貫村の発展を願いつけられました。特に、招福熊手のラベルを巻いた「開運祝酒(特別本醸造)」は、ハレの日や贈答品の祝い酒として確固たる地位を築いています。
国内海外で名実ともに静岡県随一の酒蔵
「開運」は県内外の販売比率は5:5とのこと。そして、全体の約10%が海外向けであり、韓国や中国の他、ロシアやカナダ向けにも出荷しているそうです。
さらに驚くべきは知名度だけではなく、その実力です。2021年には4年連続となる県知事賞を受賞しています。過去10年の知事賞受賞歴は県内最多であり圧倒的な技術の高さを誇ります。また、ロンドンで開催されるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)にも積極的に挑戦しており、IWC2017で、SAKE部門吟醸の部で、世界一位と言える最高賞のトロフィーを受賞しています
社員と一丸となる緻密な酒造り
現在土井酒造場は、5代目蔵元を継いだ土井弥市社長と、棒葉農(しんばみのり)杜氏率いる8名体制で造りを行っています。そして土井酒造場と言えば、能登杜氏四天王のひとりに数えられ、1968年から40年にわたり土井酒造場にて造り続けた故・波瀬正吉(はせ しょうきち)杜氏です。
「吟醸王国静岡」の立役者と言われる酵母HD-1。Hは波瀬杜氏、Dは土井酒造場の頭文字で、1975年、「開運」の大吟醸から河村伝兵衛技監が分離しました。この酵母を使って、1986年の全国新酒鑑評会では県内10蔵が金賞を受賞。全国的には無名であった静岡の地酒が、金賞の実に1割近くを占めるという快挙でした。
石高は2000石。暑さと戦う効率的な酒造り。
今も「開運」では、シリーズの頂点に君臨する「能登流開運 伝 波瀬正吉 純米大吟醸」を筆頭に、さまざまな特定名称酒でこの酵母を使用しています。
榛葉杜氏は、波瀬氏に若いころから薫陶を受け、その能登流の造りを受け継いでいます。製造量は2000石とのことで、蔵の外観の伝統的な風貌とは異なり、最新の設備が蔵の中に詰まっていました。というのも、日本酒造りには冬の寒い時期が最も適しているとされる中で、掛川市は冬に雪が降らない温暖な地域であり、基本的には「暑さ」との戦いであるためで、蔵の中の至るところに冷蔵設備が設置されていたのが印象的でした。
基本に忠実、真摯な酒造り
土井社長にお酒造りのポリシーについて伺うと、「麹菌や酵母、米などの材料を絞り、今ある中でどれだけ雑味のない日本酒を造れるかを考え実践すること。あれもこれも手を出すことなく、出来ることをしっかりとやり、少しずつ良くしていくこと」と話します。
例えば、土井酒造場は精米機を持っており、ほぼ全量を自社で米を磨いています。自社で精米を行うことで、計画が立てやすい上に、米の状態としっかりと向き合いながら磨けるメリットがあるそうです。精米歩合は最低でも60%とのこと。ここからも雑味が出ないような取り組みをしっかりと行っていることが伺えました。
米の味わいを伝える挑戦
また、米に関してはその味の違いが分かるように、同じ静岡酵母を使い、「山田錦」を主軸に、「雄町」、「愛山」、そして静岡県の「誉富士」を使っているとのことでした。例えば、「愛山」をいただくと、開運らしいクリアな骨格と優しい旨みがありつつも、「愛山」特有のシャープな酸味がありありと感じられ、「愛山」という米の良さを最大限に引き出すとこういった味になるのかと驚きました。近年多様な品種や造り方の日本酒が増え続けていく中で、あえて情報をシンプルにすることで、消費者に商品の良さが伝わりやすくなる取り組みだと思いました。
複雑で情報が多く流れの早い現代において、基本に忠実であることがいかに大切であるか、土井酒造場の蔵見学と味わいを通じてそれを強く感じました。