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【蔵元訪問記】蔵元訪問記/天鷹酒造(栃木県)
2024.10.29更新
【蔵元訪問記】権田酒造(埼玉県)
家族全員「人が好き」。人の輪で醸す地元の日本酒
東京から上野東京ラインで1時間15分の熊谷市。中山道の宿場町として発展した。荒川、利根川の二大河川水に恵まれ、自然環境は抜群に豊か。快晴日数が日本一になったこともある晴れやかなこの地に、1850年創業の権田酒造が歴史を刻んでいる。
●お父様が代表取締役で、ご兄弟お二人と1名の蔵人さんとで酒造りをされているんですね。ご兄弟揃って農大の名刺入れを使っていらっしゃる。
専務 次期7代目蔵元・権田直仁です。酒蔵の宴会の席では、君が継ぐんだねとか、外に出れば権さんのとこの息子さんね、と言われ続けてましたから、自然に継ぐもんだと思っていたし、酒に対して嫌な感情はなかったので、農大を選択してました。
父が市議会議員になって帰って来いと言われ、蔵に入ったのは2018年です。それまではスーパーに勤務していました。その頃のブラックさが酒蔵と共通するかと思って・・
常務 7代目蔵元予備の権田拓弥です。僕は農大の短大の醸造科から編入して、網走のオホーツクキャンパスに行きました。
食品の香りについて学んでいましたが、結局微生物に興味を持ち、最終的には乳酸菌の研究をしました。研究が面白くてそのまま大学院まで行きました。
2年で戻ってくるはずが、模範囚だから刑期が伸びたって、父が冗談言ってました(笑)。
そこから問屋に勤めて、ここの杜氏が辞めるというタイミングで蔵に入りました。2年程前です。座敷に人あげて、皆が楽しく日本酒を飲んでる姿見てましたから、やっぱり僕もそこに関わりたいとの想いがありました。
●ご兄弟で同じ仕事をするのは難しい部分もあると思いますが、喧嘩などはないですか。
常務 2歳差なので、趣味も一致して、仕事終わって一緒にゲームしたりして遊ぶことができる。商売の考え方はちょっと違っているかもしれないですが、この会社を盛り上げようというのは一致してます。
専務 小さいころ沢山喧嘩しましたから。今は喧嘩している場合ではないです!
これからは鑑評会に積極的 に出品したい
●専務は杜氏になられて今年で2期目の造りとのことですが、専務の代になって変えたところはありますか?
専務 前の杜氏が越後杜氏で、今の蔵人はその越後杜氏から指導を受けていましたので、源流は越後流にあると思いますが、僕なりにちょっとずつ変えてはいます。
国税局の技術指導の鑑定官さんには相談してアドバイスをいただいています。いままで出品もほとんどしなかったんですが、これからは全国新酒鑑評会で金賞をとるのが目標です。
金賞受賞できる技を持ってるけれど、その味は造らないよ、という方が潔いと思いまして。
専務 もろみの温度は光ファイバーで温度を感知する計測器が入りました。さらに電波で飛ばして携帯で見れるんです。24時間見れるようになりました。
麹については、前の杜氏は経験則で動いていたけれど、僕はまだ経験が浅いので、1時間ごとに行って確かめて、布をはがしたり、くるんだり。湿度がなくならないようにビニールを被せたりする作業をします。
その上で熊谷のお酒の研究機関に麹をもっていって麹の出来を判断してもらいます。昨日もいい出来だと評価いただきました。
●お二人の作業分担はどのように
常務 兄が造り、僕が事務処理。もちろん造りの時期は僕も手伝います。問屋にいたので、パソコン処理が慣れていて、注文の整理などは自分がやってます。
僕の野望は、今後兄弟で違うタンクで造りたい。酒質設計をそれぞれが行い、お互いに造りについては口をださないで、造りあげていくんです。
「直実」は武士のような酒
●主銘柄「直実」(なおざね)はどんなお酒ですか、またこれからお二人で、どんなお酒を造っていかれますか。
専務 「直実」は米の味がしっかりある。数値が辛口ですが、口に含むと米の甘味を感じる骨太な酒です。
常務 今風ではないと言われるけど酒好きが好きなお酒です。お燗映えはします。
専務 しっかりと味わいはあるけど後味切れる酒。これを武士のような酒だと僕は表現しています。潔く切れる酒を造りたいですね。「直実」は武士のような酒ですが、火入れはよくも悪くも癖があるので、この癖を若干抑えたい。
でも個性は出して、昔の味は残したい。今人気のある酒質にもチャレンジはしていきたいです。
常務 兄はそう決まっているけど、僕はまだ見習いなのでこれから決めていきたい。元々営業がいなかったので、これからは積極的に「直実」を売って、販路拡大しつつこれから造っていく酒を模索していきます。
●酒造りで、譲れないこだわりを聞かせてください。
専務 機械化はしても、これは自分たちが手作業でやった、という自分たちがここまで関わっているという実感がほしい。
常務 機械を道具のひとつとして使いはしますが、自分たちの手作業でやったほうが、ロマンがある。いろいろ比較しますが、お酒と真摯に付き合うっていうのかな。
事務作業が午前1時か2時ぐらいまでかかってしまって、「俺えらいな~」って思っていたら、どこからかガランガランって音がする。なんだろうと、今ごろ作業してるヤバイやつがいると外を見ると、兄でした。
専務 サーマルタンクが1基しかなくて、お酒冷やすのにダキ樽に、氷と冷水を入れて、それを引きづって運んでたんです。
タンクに入れてたのを引っこ抜いて洗って、また氷と水つめて、30kgほどのをえっちらおっちら運んでました。手作業はシンドイですがね。
それと、地域の人と関わっていくことにはこだわりたい。これだけ沢山蔵があって、蔵ごとの味わいって何と問われたら、やっぱり地域のものを使うことじゃないかな。
酒米「さけ武蔵」を育ててくれる農家さんが美味しくっできたねってお酒を飲んでくれます。地域のものを使って地域の人とコミュニケーションがとれて、地域の真ん中に酒蔵がある、といった構造ができる。そういった文化を作りたい。
●篭原駅からのタクシーの中で、運転手さんが「利き酒会」に行くというお客さんを駅から酒蔵まで、ひっきりなしに載せたことがある、とおっしゃってました。酒蔵でイベントなど開催するのですか?
専務 1日100人ほどの方にお声がけし、2日開催のイベントを定期的に行っていました。座敷をぶち抜いて、足りなければ外で、延々と飲んでもらう。外に利き酒会場みたいの作って、酒のマッチングなども用意します。
まずは好みの順位をつけて、ご自分の好みを知っていただく。マッチングでの成績は、100位までひとりずつ発表していきました。うちに関わりのある方とか、近くに自衛隊があるので、その関係の方とか、遠くからもいろいろいらっしゃいました。
常務 常連の方向けに20人ぐらいからスタートして、だんだん増えて200人です。料理は母や近所の方が造りました。
同級生のお母さんもいて、台所で「母さ~~ん」って呼んだら、皆一斉に「ハーイ」て応えてくれました(笑)
専務 我々が産まれる前から開催していて、休んだのは、「僕らが生まれるから」みたいな理由だけ。通算34回位続けていましたが、このコロナでいま休止してます。また必ず復活しますよ。
常務 家族全員「人」が好きで、人前にいても苦にならず、宴会が好きな家族です。全員おしゃべり好きです。
話の端々にユーモアがあり、楽しい時間を醸し出したお二人には、家族全員が「人」が好き、といった素地があった。インタビューの終盤に、外出先からお蔵元がお帰りになる。
「酒造りには、造りだけでないプラスアルファがある。様々な縁を繋ぎ、人間関係を豊かにする貴重なものっていっぱいあります。最近は酒造りへの許容範囲が広がり、全国の酒蔵が活気づいていますね」と語る蔵元に、ご兄弟は大きくうなずき、酒造りには魅力があります、と口を揃えた。
【権田酒造】
〒360-0843埼玉県熊谷市三ヶ尻1491
TEL:TEL.048-532-3611FAX.048-532-7889
HP:www.gondasyuzou.com