【蔵元訪問記】蔵元訪問記/岩瀬酒造

2024.08.14

創業享保8年(1723)と伝えられる岩瀬酒造は、代々当主の副業的に受け継がれていたが、大正時代から本格的に酒造りに力を入れる。歴史は約30年を数え、江戸時代からのそのままを残す酒蔵を現在でも維持する。茅葺き屋根の母屋の梁には、慶長14年(1609)に御宿沖で難破したサン・フランシスコ号の帆柱が使われているという

現蔵元の岩瀬能和氏は、11代目となる。そして11代目を支える会長は、岩瀬能和氏の甥に当たる庄野智紀氏(50歳)。この酒蔵内にあった病院で産声をあげた。庄野会長は、酒蔵以外の事業を行いながらも岩瀬酒造を継承することを7年前に決心し、代表銘柄「岩の井」の個性を生かした酒造りに夢を託す。

 

          

硬度が高いと、力強い酒になる

●「i240」シリーズの評判を聞いています。「i240」とはどんな意味なのですか?

会長 昨年、創業300年記念だったので、これを機に発売した「旧赤シリーズ」を「i240」の印刷瓶で統一しました。iは「岩の井」の頭文字で、240は水の硬度です。宮水の硬度は100~120ですから仕込水としては硬度が高い。

住吉 千葉県は海が隆起してできた土地なので地層が貝殻層です。雨水が貝殻層を通って上がってくるから、硬度が高い。硬度が高いと、酵母はより食って発酵を促すので、力強い酒になる。そこにキレのいい酸を出して食中酒に向く「岩の井」にします。

この水を操るのは杜氏の技術が必要で、いかに低温を維持して造るかに苦労しています。硬度の高い水を使うと味が出すぎる傾向にありますから。

無濾過生原酒メインに出しています

●すべて無濾過生原酒ですか?

会長 実は僕は以前、酎ハイやハイボールばかり飲んでいました。10年前に、他の酒蔵の無濾過生原酒を飲んで美味しいと感じ、こんな酒を造りたいと思いました。無濾過生原酒 をメインに4年前から出しています。9号酵母で米違いの純米吟醸シリーズです。

「五百万石」、「山田錦」「玉栄」、「雄町」「美山錦」「愛山」をすべて50%精米で使います。「総の舞」だけ酵母が1801です。メインは千葉県産「五百万石」の純米吟醸で、タンク4本造ります。これはうちの水との相性がよく、酸が面白い形で出る。他はタンク1本です。

●いずれも、飲み口は華やかな香りがあったり、ストロベリー系の含み香があったりするけれど、飲み込むと同時にいい酸を感じて、その酸が最後まで飽きさせない。それぞれの米の特性が酸と共に生きていているようです。

会長 酸は温めると旨味に変化するので、生原酒ですが燗酒にしてもいいんですよ。

住吉 酒蔵はもちろん、流通でも冷蔵設備が整い、フレッシュな状態を保ちながら、お客様の口元にもっていけます。

搾るやぶたも冷蔵庫で囲いました

会長 50㎡の冷蔵庫を造り、やぶたも冷蔵庫で囲いました。酒蔵の仕事を初めて7年、最初はこんなに大変なのかと思いましたがコロナを乗り越え、今年は前期より4割アップです。「i240」が好評で、輸出も伸びています。

僕が会長を務めることになって、いかに千葉の酒を手に取ってもらうか、興味を持ってもらうかを考えました。

「i240」は酸味が特徴的なので、食事と合わせると独特なペアリングになります。生春巻き、チリソースやパクチーとも合う。

パクチーは食べられなかったのに、純米吟醸に合わせたら食べられるようになった。フォアグラのバルサミコ酢ソースともめちゃくちゃ合う。赤ワインに合うような食事と合わせて遜色ないんです。

能登流のしっかりした味に南部流の綺麗さが融合

●杜氏さんはどちらからですか?

会長 仕込みは4人で行います。10月から4月末まで。南部から3人来て、頭の四宮(写真右、写真中央庄司会長、左住吉さん)が正社員で常勤です。頭は農口尚彦研究所にいて、能登流です。能登流のしっかりした味に南部流の綺麗さが融合します。今の杜氏は4年前から来ていて、今の酒質になりました。

●熟成酒にも力を入れてますね?

会長 ミネラル感があるので、熟成が進んだ方が味のパフォーマンスはいい。確実に水の問題です。昭和40~50年代に造ったものをブレンドして販売しています。ただ古酒の市場はまだ小さい。凍結酒も出します。

−30度で水とアルコールを一緒に冷凍すると、新酒の味を数十年後にも味わえるというものです。まだ手探りですが、今年、形にしたいです。あと、兵庫県産の「山田錦」で速醸の純米大吟醸を初めて造りました。

●住吉さんは会長よりずっと長い。会長が入られて、今までの変遷をどうご覧になってますか?

 社長の次に長い勤務歴25年です。いろいろありましたが、蔵は家業ですから、私たちの役割は、どう次につなげていくか、だと思います。会長が入って、心強い。

会長 酒蔵夢がには夢があります。自分が美味しいからこれ造る!っていう仕事がいい。やってて楽しいです。

●特徴的な水の性質を活かし、個性的で刺激的な酒に変身した「岩の井」。唯一無二の味わいで、「千葉の酒」のイメージをも塗り替えていく

山廃仕込 岩の井 岩瀬酒造株式会社 (iwanoi.com)

岩瀬酒造/ 千葉県夷隅郡御宿町久保1916 電話:0470-68-2034



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