新企画「日本酒はお好きですか」

2025.10.07

著名人インタビューを復活させました。

かつて、俳優、作家、ミュージシャンの方々など著名な方のインタビュー記事をビミー紙面にて掲載していましたが、この度新企画として復活!今後は、「蔵元訪問記」に代えて、不定期に掲載します。

著名人と言われる方の中には、いつも何らかの覚悟が構えています。覚悟して生きてきたからこその名声であったり、功績があるはずです。そしてちょっぴり息抜きの時間に日本酒はなかったですか? 日本酒はお好きですか? 著名人だからこその深みのあるお話、日本酒の嗜みをお伝えしていきます。

今回ご登場いただいたのは、『孤独のグルメ』の原作者であり、マンガ家・イラストレーター・ミュージシャンでもある久住昌之氏です。たくさんの引き出しが開きました。

久住昌之

すげ~迷うなこれ、迷うな~ 

「赤城山」って美味しいんだよね。 

この列は今の酒だね。旬の酒 。

どうしようかな、「赤城山」いくかな~ このジャケットはあまり好きじゃないな、あっこういうの好きだな。これだな!それと~やっぱり「越乃寒梅」も入れたいな~。

結局、選ぶのは思い出があるものになってしまう。 

「赤城山」(近藤酒造)は、昔行っていた料理が好きだったところで、飲んでいた。 「やんちゃ酒」(蒲酒造場)は、自宅の近所にあった蕎麦屋にあった。蕎麦やの主人が下戸だったんだけどいい人で、俺がいくと嬉しそうなんだよね。 蕎麦は、素朴においしくて。 つまんでちょっと飲んで、店主が飲まないから遠慮して多くは飲まなかった。うどんもおいしかった。有名店じゃないけど、その店で過ごす短い時間が好きだった。

「越乃寒梅」(石本酒造)は、大学のころ幻の名酒と呼ばれてて、なかなか置いてる店がなかったな。

名酒センターの数ある日本酒から選ばれた3種類は、久住昌之氏の遠い記憶の中に居続けたもの。久しぶりの酒との遭遇に、久住氏は相好を崩し、美味しそうに口に運ぶ。

 味は忘れちゃったんだけどと言いながら、その酒が置いてあった店やそこを取り巻いていた人達に想いを馳せる。

漫画家デビューをしていた80年代後半。美味しいな、と思った最初のお酒 は「浦霞 禅」(佐浦)で、新宿歌舞伎町の居酒屋で飲み過ぎて二日酔いになったそう。

弘前に取材にいったときには宿の前が「豊盃」(三浦酒造)の特約店で、 「豊盃」がずらりとあって、最初は利き酒していたが、編集者6人ぐらいで飲んだり食べたりして、もうわかんないよってなってしまった。

寒くて雪が降ってるときだったと、数々の日本酒エピソードをもつ久住氏は、全国を飛び回る超多忙人。美味しい店との出会いを漫画に描いて、今なおロングランで放映されている『孤独のグルメ』の原作者であり、イラストレーター、ミュージシャンとして、日本国内外で活躍中だ。

「皆味のことばかり語ってるけど、店のご主人が作る味は、お客さんも作っている。 その店が街のどんな場所に立っているかも確実に影響してくる 。主人とお客がいて、どんな街にあるか 、個人店はそれぞれが生かされて味がでてくる 。

『孤独のグルメ』でも五郎が歩いているのは、こういう街でこんな人がいて、店の中はこうなっていて、というのを見せたいんです。 味だけでなく、そこにいたる過程が面白い 。個人店は一種のアーティスト」 と語る久住氏。

『孤独のグルメ』の人気の秘密はここだ!

酒蔵を訪ねるのは、同じつくり手として

酒の好みは人それぞれだから、 つくり手さんの方も何を好んでどう造りたいのか、というのにすごい興味ある 。他と違うおいしさを出すために何を工夫しているのか・・・。

今若手が評価されたりばんばん売れたりだとか、インバウンドで売れ方が変わるとか、そういう時代のなかで、何をしようとしているのか。自分もものをつくる者として興味がある。  

酒蔵に行って話を聞くと、当然だけどみんな努力してることがわかる。 

 一番最初に行ったのは、津軽の小さい酒蔵で、ラベルも手で貼っていて、4人で造ってるところだった。今はインターネットとかあって、おいしい酒つくればいろんな人が買ってくれる時代。だから、この酒蔵は燗酒に特化して売りたいと。小さいからたくさん造れないけど 自分が好きで信じている味があって、燗酒にしてこそ旨い酒を目指してた。

音楽もマンガもそうだけど 。自分がおいしいと信じるところを目指すってところに、共感を覚えました。流行りに媚びずに。そこは勇気もいる。

「風の森」(油長酒造)は先代の時とはまったく方針を変えて いる。古い文献を読んで、大昔の造り方を再現するなど独自の酒造りを模索していました。

諏訪の「真澄 」(宮坂醸造)の社長さんも若くて、自分のやり方で親の代から変えて、勝負に出てる。例えば、ラベルのデザインは昔のがいいっていうファンも多いけど、将来と新しい客を考え、新しいデザインにしようとする。これでほんとにいいのかとか、判断を社長がしなきゃならないよね。そういう苦しみはあるはず。 その先の喜びも。

  一本の酒でもやっぱりものづくりだから、味だけじゃないなって。これからの販売戦略もあるし、 伝統を背負っているところもある 。だから「ラベルは昔の方が味があっていいですね」なんて軽薄なことは言えないですね。

 イラストレーターとして、日本酒のラベルの印象は

デザイナーも若返って面白いのが出てきてるけど、もろコンピューターってわかるようなのは好きじゃないな。どこかオーソドックなスタイルに惹かれちゃう。 1本選べと言われたらラベルは「〆張鶴」(宮尾酒造)が好きなんだよ。このジャケットにしてこの味わい という印象。「越乃寒梅」(石本酒造)も字がいい 。デザインが変わっても字は同じでしょ。それ って簡単なようで難しい。

 もし自分で好きなお酒にラベルかいて、と言われたら、いや~力入るよね。日本酒のデザインしたいね~うまそうなやつつくりたいな~ 。夢です。なんて、ハズしたらゴメンナサイじゃすまないけど・・・酔ってるかな俺(笑)

日本酒はでかけたその土地の日本酒を飲んで、さらに東京でも美味しい

「 田酒」(西田酒造店)って若い頃好きじゃなかったんだけど、青森で飲んだらおいしくてびっくりした。地元のタコやホヤを肴に飲んだらまたすごくうまいんだよ。東京に帰ってきて居酒屋に「田酒」があったから恐る恐る頼んだら…ウマイんだよ(笑)。

同じ様に。屋久島に行ったときに安いホテルの冷蔵庫の「三岳」(三岳酒造)飲んだら、やたらウマかった。島気分のせいかなって思って、東京に戻って飲んだら、ちゃんとウマいんだよ(笑)。

小さい頃、親戚の人が飲んだビール瓶の底のビールを飲んだら、ゲ~ってなって、びっくりするほどマズかったけど、もはやあのマズさは全然わからない 。おいしいって感覚、不思議ですね。

 旅の醍醐味

地方に行って、夜になって飲み屋を探す時はいつも迷う。 とにかく歩き回って何軒も見て、こっちかな、さっきのとこでいいのか。やっぱりここじゃないかな~と。行ったり来たり・・・。

ボクは事前にネットで調べない。そうすると現地で困るでしょ。困るってことは一生懸命頭を使ってるんだ。そこが大事。自分の目と頭を使って考える。生きているんだから、生きているってことは、何かを考えてること。 

テレビで見たところもいいけど、ここもいいんじゃないかな?と勝負に出ることが旅を豊かにすることになる。 自分で探した店は忘れないものです。 一喜一憂しつつ自分自身の判断力と洞察力が磨かれる。

  先日も、表にノーヒントの店だったんだけど、小さく、「手打ちそば」って書いてあって、そこに賭けて入った。そしたら先客たちがとても楽しそうだった。6人ぐらいのサラリーマンが、いかにもここにくるのを楽しみにしてたんだなっていう雰囲気を醸し出していた。

ビール頼んでその様子見てたら「この店アタリかも」って思った。 最後に蕎麦頼んだら、最近食べた中で一番おいしい!今の店主はここを叔母から引き継ぐ前は、長野で蕎麦の修業をしていたそう。

 青森に行って、いちかばちかっていう店に勝負かけたら、 中にお客さんがひとりもいないんだ。 どうしていないのか?うまくないからいないのか、たまたまヒマなのか? 年配の女将が一人でやっていて、いきなり 「うちコースしかないんです」 って。

えー!ですよ。2軒目だから、そんなに食べられないって言ったら、半分にしますって 。最初に出てきたのは、きんぴらごぼうで、太くて味も香りも濃くておいしい!そういえば青森はごぼうの産地だった!これはいいかもしれないぞって期待がぐーんと高まっったところに女将が「しろうおです」って。 ガラスの容器の中で、透明の小魚がウニョウニョ動いている 。白魚とは違う。

どうやって食べるんですかってきいたら、醤油かけて食べてと 。醤油かけたら、途端にワーッと激しく動いて、2、3匹飛び出した!食べてみたら全然生臭くなくておいしい。けど口の中でも動く。なんでも川魚では高級らしい。その後もおいしい料理がいくつも出たんだけど、「しろうお」ショックで覚えてない(笑)。 

事前に調べたものを調べたように食べるのは安全だけど、そこに旅ならでは「出会い」はないよね。思いもかけない出会いこそが旅 。

 この前は三重県でボク好みのシブい食堂があって「夕飯はここだ!」と決めて入ったら、「18時半までなんでもう終わりです」って。ガーン。でもその店主の爺さんの顔見て、どうしても入りたくって、次の日夕方4時に行きましたよ。

 こんなふうに旅をしてどきどきしたり、 ワクワクしたり、びっくりしたり。それが生きているってことでしょ。 ネット見て確認旅行してるボクは半分は死んでる(笑)

 久住 昌之プロフィール

マンガ家・イラストレーター・ミュージシャン

1958年7月15日 東京・三鷹生まれ

法政大学社会学部卒。美學校・絵文字工房で、赤瀬川原平に師事。

1981年、泉晴紀(現・和泉晴紀)と組んで「泉昌之」名でマンガ家としてデビュー。泉昌之名義では、デビュー作にしてロングセラーの単行本「かっこいいスキヤキ」他、「新さん」「ダンドリくん」「豪快さんだ!」など単行本多数。実弟の久住卓也と組んだマンガユニット「Q.B.B.」で、1999年「中学生日記」で、第45回文藝春秋漫画賞を受賞。

谷口ジローと組んで描いたマンガ「孤独のグルメ」は、2012年にTVドラマ化され、現在も放映中。劇中全ての音楽の制作演奏、脚本監修、最後にレポーターとして出演もしている。「孤独のグルメ」単行本は、フランスの他世界十一か国で翻訳出版されている。

エッセイは「昼のセント酒」「食い意地クン」「野武士のグルメ」「東京都三多摩原人」ほか多数。

2019年、絵本「大根はエライ」(絵・文 久住昌之福音館書店)が「第24回日本絵本賞」を受賞。2023年、初のイラスト画集「すきなえ」出版。

2025年1月、劇場版「孤独のグルメ」が全国東宝系映画館で公開

久住昌之オフィシャルウェブサイトはこちら

久住昌之 オフィシャルウェブサイト

 

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