【蔵元訪問記】 明利酒類(茨城県)

2022.04.15
水戸駅から車で10分足らずで到着する明利酒類。江戸時代末期に創業した加藤酒造店の事業を継承し、明利酒類株式会社として創立。清酒、焼酎、リキュール類、発酵調味料、医薬部外品等を造る総合酒類メーカーとして全国に販路を持つ。日本酒は南部杜氏が率いる7名で製造している。執行役員技術部長の皆藤茂樹さん、酒類販売部の草野洸さんにお話を伺った。
7000坪の広大な酒蔵の敷地には、巨大なタンクが居並ぶ。

「アルコール」の販売元として

●清酒製造の免許を取得して、水戸黄門に因んだ「副将軍」の名で販売を始められたんですね。

草野 明利酒類が、栃木県と茨城県の蔵が出資した会社で、日本酒を安定的に造れるようにと、醸造用アルコールを販売しました。明利酒類としてはこのアルコールの製造が起源と言えます。醸造用アルコールは現在240社ほどの酒造会社へ販売しています。そのほか酵母やリキュールなどの原料用アルコール、味噌用のアルコールとか、麺類に添加するアルコールなどもあります。

皆藤 醸造用アルコールの原料は糖蜜。65度くらいまで連続蒸留器で蒸留してできあがるものです。アルコール添加は酒造りの技術で、香りがしっかり出ます。こだわった杜氏さんは、醸造用アルコールを寝かせてから添加する。伝承されてきた酒造り技術の一貫であり、戦後の三倍醸造酒のアルコールとは意味合いが違います。

 最近は、コロナ禍で余ってしまったというメーカー様のビールを蒸留しました。結構な数の依頼がありましたこれはウォッカやジンなどスピリッツの原料になります。

草野 新型コロナウイルス感染症の発⽣に伴う特別措置で、手指消毒用エタノールの代替品として使用し、飲用不可の表記他一定の措置を講じた上で税務署へ申請をすれば、という国税庁の発令がありました。それにのっとって発売した「メイリの65%魁YELLOW」は日本酒由来の高濃度エタノールにレモン香料を加えました。しっとりして、柑橘系のさわやかな香りがあります。

◆酵母の開発

●アルプス酵母の7号、香露の9号、小川酵母の10号は現在清酒の代表的な酵母で、醸造協会でも全国の酒蔵へ販売しています。小川酵母はこちらで開発されたんですね。

皆藤 小川酵母からできる酒の特徴は、酸が少なくて「酢酸イソアミル」系のバナナ様の穏やかな香りがあります。食中で飲んでも幅広い肴と合うことをコンセプトに、含んだときの含み香を重視しました

●小川酵母は、全国の日本酒のグレードアップに寄与しています。酵母の発見、開発と相当な労力と年月が必要だと思いますが、今後も新しい酵母の開発など考えていらっしゃいますか。

皆藤 はい、開発中です。まもなく発表できると思います

●明利さんの功績は、清酒業界はもとより、他業界にも役立っていますね。

高級酒の米の浸漬は、厳密に時間を計って水から引き揚げる手作業を行う

新しい入口

●Vチューバーさんとのコラボのお酒が話題になっていますが。

草野 ホロライブ3期生の兎田ぺこらさんとのコラボでは、「百年梅酒ぺこらver.」を発売。後にホロライブ5期生の雪花ラミィさんとともに、「ラミィの日本酒造りプロジェクト」を開始しました。「副将軍大吟醸」をベースに、麹米に山田錦、掛米に美山錦を使って、淡麗辛口でありながら、フルーティで華やかな吟醸香のある「大吟醸雪夜月」ができあがり、イラストレーター肋兵器先生が描いたデザインをラベルにしました。若い方々から多くのアクセスがあり、ご好評をいただいております。

資料館の別春館にある「兎田ぺこらコーナー」

●飲んだことのない方には、飲むきっかけになりました。これも日本酒需要の底上げになりますね。

草野 若い方が関心を向けてくれるコラボのお酒を入口にして、今後も飲んでもらいたいです。広く情報発信をして、まずは飲んでいただける機会を作りたい。技術部長は良い酒を造る、営業は入り口を拡げる。遊び心のある商品を出して、これからはネットにも力を入れていきます。

執行役員技術部長の皆藤茂樹さん、酒類販売部の草野洸さん

(取材後記)

 皆藤氏に長年の酒造りで印象に残ったことを聞くと、2011年の東北大震災だったと語った。草野氏はちょうど入社する年で、手伝いに駆け付けていた。積んであったパレットは総崩れし、何万本という酒瓶が割れた。

その片付けに追われながらも、断水した周辺に井戸水を運んだ。向いの中学校には100トンタンクに井戸水を詰めて届け、病院には2トン車を使い、パン屋用にも1万4000リッターのタンクローリーに水を詰めたという。  

敷地に5か所ある井戸水は中硬水で、甘味のある良い水ですよと皆藤氏。いついかなるときでも、明利酒類は博愛に満ちていると感じた。これまでの日本酒の発展を担い、今後の道先案内人にも、なるかもしれない。

「副将軍大吟醸」山田錦40%精米、明利酒類の「M-310」酵母使用。食事に寄り添えるのが日本酒の魅力だと語る皆藤氏の言葉通りの大吟醸

【明利酒類】
茨城県水戸市元吉田町338番地
https://meirishurui.com/
TEL 029(247)6111

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