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【蔵元訪問記】男山㈱(北海道旭川市)
2025.02.01更新
【蔵元訪問記】高砂酒造(北海道・旭川)
いかにも辛口のイメージのある「国士無双」という銘柄。「国士無双」には、天下に二人といない逸材、という意味があり、今からおよそ2200年前、漢の時代の将軍・韓信の武勇伝が語られた中国の史記に由来する。これに因み、天下に二つとない酒、後世に語り継がれるような酒に、との願いを高砂酒造4代目蔵元が「国士無双」に託す。「国士無双」が誕生したのは1975年。旭川・道北での販売から全道に広げ、更には本州から世界へ拡大していった。


1990年には「氷雪囲い」「雪中貯蔵」「雪氷室」等旭川の気候を存分に利用した醸造方法で、人気を博したが、やがてバブル経済崩壊の余波を受けて倒産。2005年には日本清酒㈱が再生支援をし、子会社として酒造りを継続。
2008年~2010年の3年間は全国新酒鑑評会にて「国士無双」連続金賞受賞を果たし復興に勢いがつく。その後清酒の商品開発、リキュール、酒粕を利用した商品などを積極的に手掛けて、地元企業との協働産学連携事業に取り組む。2017年に発売した最高級酒「旭神威」(アサヒカムイ)は、旭川を見下ろす大雪山連峰がカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼ばれていることから命名。大雪山連峰の源水で120余年の酒造りを続けている地酒蔵として、この自然の恵みに感謝する気持ちを込めている。



道産米で醸す「国士無双」
●「国士無双」は都内でもよく見かけました。キリリとして飲み飽きしないですね。
今でも売上の半分は「国士無双」です。7割は道内、道外2割、海外が1割ですが、台湾、香港、中国が強い。「国士無双」という酒銘に馴染みがあるからでしょうか。
「国士無双」の9割5分は北海道産米を使います。2000年に「吟風」、2006年「彗星」、2014年には「きたしずく」という酒造好適米が誕生しました。重なる改良により品質が向上し、他県からの需要もあります。

●酒造りは何人でされていますか?
総製造数400klを日本清酒㈱から来た森本良久杜氏のもとで、地元の10~12人で造ります。
旭川は4本の河川(美瑛川、牛朱別川、忠別川、石狩川)が走る上川盆地にあり、水資源が豊富です。
仕込み水や割水だけではなく、米洗い、米を漬ける浸漬など多くの作業で水が必要になります。使用している仕込み水は、鉄分含有量のきわめて少ない硬度30度の軟水です。そのお陰で辛口を目指しながらも口当たりは優しい酒になります。

SDGSの観点から生かされて
●リキュールにも力を入れていますね。
「国士無双」を使用した、日本酒ベースの梅酒は年間2万本くらい出ています。北海道産の甜菜糖蜜(ビートオリゴ糖)を加え、ふわりと甘味が広がります。

北海道で育った苺、林檎、葡萄を圧搾し、果汁と日本酒ベースの梅酒をブレンドした3種の飲み比べセットもあります。2020年に北海道の特産品を発信しようと、立ち上げた新ブランド「蝦夷蔵 梅酒LAB.」です。
北海道らしいのが利尻昆布梅酒。「国士無双 梅酒」に利尻昆布を1週間漬け込みます。根昆布の通常破棄される部分で、SDGSの観点からも評価されています。梅昆布茶のイメージですが、旨味があって程よい塩加減です。
若い世代にも刺さる日本酒を
●SDGSという意味では酒粕の利用もそうですね。
そうです。酒粕50トンくらい、昔は廃棄していました。栄養成分もあるのにもったいないと、2015年に酒粕プロジェクトを立ち上げ、数々の酒粕を使用した商品を作りました。ブルーチーズに酒粕を覆って3週間追熟させて作るチーズは日本酒にものすごく合います。
「旭高砂牛プロジェクト」ではひかり牧場で酒粕入りの飼料で牛を育て、年間約150頭を生産しています。旭川市教育委員会に毎年一頭寄付して学校給食で提供、プロジェクトメンバーが学校へ出向き、旭高砂牛の生産や地産地消について講話します。
「酒粕はカスじゃないプロジェクト」は、旭川西高校で酒粕の授業を行ったのが始まりで、生徒たちが自ら酒粕のアレンジレシピを作成、酒粕入りマフィンやドーナッツの販売会などを実施しました。他にも様々なプロジェクトを行っていますが、数年かけて浸透してきました。
●盛りだくさんですね。今後の挑戦は?
日本酒の売り上げはキープしつつ日本酒ベースのリキュールなどに力を入れていき、若い方に門戸を広げる低アルコールにも挑戦したいです。「若蔵 WAKAZO KURA Challenge」というブランドでは、「年齢に関係なく蔵人が若い心(初心・好奇心)を持ち、新しい製品造りに挑戦しよう!」という気概で酒を造り、若い世代にも刺さる日本酒を目指しています。
毎年1から商品コンセプトを考え、酒に対するアンケートや世相を考慮しつつ、酒質や味わい・デザインを変えています。副杜氏と他2名のチームで造ります。2024年は赤色清酒酵母のにごり酒を新発売し、過去作で人気だった麹の酒・ワイン酵母の酒などは今年も再販となりました。このプロジェクトは続いていきます。

長い歴史の栄枯盛衰の中で、堪えない豊かな水資源が酒造りを支え、厳寒の風土を生かした酒造りが存続した。そして今さらに、地元企業の皆さんに協力いただきながら様々な分野の商品が高砂酒造から産まれ続けている。
高砂酒造/北海道旭川市宮下通17丁目右1号/ TEL. .0166-23-2251