【蔵元訪問記】(秋田県)

2025.07.10
 フランスで行う日本酒コンクール2025Kura Masterの審査結果が発表され、天寿酒造はプラチナ賞(審査員賞)1点、金賞4点と好成績を納めた。「天寿 純米吟醸 平成9年醸造」が《プラチナ賞・審査員賞》を、《金賞》は「純米大吟醸「天寿」」「米から育てた純米酒「天寿」」、「生酛仕込純米酒「鳥海山」」、「生酛純米大吟醸「天寿」と見事な受賞。Kura Masterは、食と飲み物の相性に重点を置いたコンクールで、フランス人を中心としたヨーロッパの審査員が、フランス人のために行う。日本酒の出品銘柄数は1223点だった。
さらに、ロンドンで開催された世界最大規模のコンペティション「インターナショナル・ワイン・チャレンジ2025(IWC)」のSAKE部門において、天寿酒造の4商品がメダルを受賞した。純米大吟醸「天寿」は2年連続GOLDメダル。大吟醸「鳥海」、生酛純米大吟醸「天寿」、生酛純米吟醸鳥海山「鳥海リンドウ酵母仕込」はBRONZEメダルを獲得。
純米大吟醸「天寿」は天寿酒米研究会 契約栽培酒造好適米「百田」を100%使用して、鳥海山からの仕込水を活かした柔らかな味わいに、魅力的な芳醇な香りと贅沢な甘みが宿る。IWC2025・フェミナリーズ世界ワインコンクール等、数多くのコンテストでも金賞を受賞している。

日本では、令和7年の「全国新酒鑑評会」で金賞を受賞。
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世界が認める「天寿」の産みの親は、天寿酒造の七代目蔵元・大井永吉氏。杜氏は13年目の一関陽介氏。大井蔵元は「日本吟醸酒協会」や「花酵母研究会」などの会長職を経験し、東京で開催される多くの日本酒イベントでよくお姿をお見掛けする。そんな大井蔵元にお話しを聞きたいと、天寿酒造に伺った。東京から6時間近くかかる秋田県の鳥海山の麓にある酒蔵には、大井蔵元の研究熱心に加え、果敢なチャレンジが、随所に見られた。
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原料米は100%契約栽培米

国内は元より、海外へも行かれ、様々な会を率いて日本酒業界に積極的に寄与されていらっしゃる。蔵元の後継者は、元々希望されていたのですか?

 兄弟男3人で今の専務が弟です。親父から継げと言われたのは高校3年ごろ。ただ周りからあんたは帰ってくる人と言われていました。農大の醸造科に行ったらもう継ぐしかないと覚悟はしました。宝酒造さんで3年くらい営業職を経験してから戻りました。

26歳で帰って、その頃は9000~9800石あたりまで製造していました。社長になったのが41歳。蔵に帰って3年くらいは製造石数が伸びていて、昭和50年末頃から売り上げが下がってきました。自分ができるのは品質向上と一念発起しました。今思えば、それでよかったと思います。

どのように品質向上を試みられましたか?

杜氏とも相談し、すべての工程の見直しをしました。昔から良いと言われる事はより向上する為の機械を入れたり、手作りで装置を作ったり・・。純米大吟醸の比率を引き上げ、売上利益は以前に劣らないようにはなってきました。「鳥海山」という酒はそこで生み出した七代目ブランドです。

自社精米所。精米した後に風を通して 米の元の水分にもどす工夫がある。
左下に洗米機がある。人が連続作業可能な10kgに測り洗米気に落とし、正確に洗米・吸水し、外側の水をバキュームして余剰水分を取り、蒸す前の米の水分精度を上げる。既存のものを組み合わせて作った杜氏のお手製で、社長賞が贈られた。
自動製麹機。上が床になっていて、麹菌を振って発芽後下段を落とす、落として平にすることで手入となる。手では触らない。ずっと酒蔵を見て回り10年位考えて、導入したという。精米歩合50%までの麹はこれで作る。「ただ、現場に来なくなったら、アウト。機械まかせではだめだと言っています」と大井蔵元。これより白いのは大箱を使用。
今期初めて使用した最新機器「ジュール殺菌」。瞬間熱殺菌でダメージを少なく熱殺菌する装置。緑茶やジャムの本来の色が変わらないほど。瓶火入れに限りなく近い
櫂棒が丸ごと洗えるシンク

天寿酒米研究会というのは?

「酒造りは米作りから」と、昭和58年に先代が設立しました。メンバーは蔵人を中心に、地元農家です。食管法で全量買い取りの時代、由利本荘地区が秋田で品質一番と言われ、酒米を作ってくださいと私が農家に頼んで歩きました。

食管法はいずれなくなるから、目の前の天寿が全量買い上げを約束すると説得し、天寿酒米研究会で色々講師をお願いし、酒造好適米の特徴や追肥のタイミングなど総合的に指導してもらい、成分も1軒ずつ分析し、個々の欠点も拾い上げる研究会は40年以上続いています。秋田県酒造組合にも契約米があり、「山田錦」も契約栽培を県単位で行っています。天寿酒米研究会を中心に、こういったものを含め、天寿の原料米は100%契約栽培米となりました。

酒造組合や兵庫県の「山田錦」についても大井蔵元が陣頭指揮をとって契約されたんですね。大井蔵元ご自身で酒造りはされますか?

当初、社員が50人くらいはいまして、まずは電話の対応から始まって、営業に至るまで、目の前の気になるところをどんどん変えていきました。その合間に造りも見てきました。取引は由利本荘地区90%秋田市9%で、県外はほとんどなく、私が開拓しました。3年で秋田市の取引量が倍増。県外は問屋さんの他に限定流通用の「鳥海山」を造って直取引できるように個別に回りました。

酒屋さんと酒蔵、お互いが必要と思う関係を目標に築いていきました。

鳥海山の水で造るうまい酒

「天寿」の特徴は?

「天寿」の特徴は、鳥海山のまろやかな伏流水で造るところにあります。目指すは「この地で出来る最高の酒」、毎年毎回一本一本が挑戦ですから色々なタイプに挑戦します。日本酒は食事を美味しくする「秘密兵器」です。日本酒と一緒に食べたらさらに食事が美味しくなるでしょ。

今年の8月で66歳の大井蔵元。「いくつまで続けるかはまだ言えないよ~」と現役バリバリの活力が会話の端々に溢れる。酒蔵内を蔵元自身に案内していただき、あらゆる工夫に脱帽。創業196年目の酒蔵の歩みは、輝かしい功績を残しながら続いていく。

天寿酒造オンラインショップ⇒https://tenju.co.jp

*天寿酒造/秋田県由利本荘市矢島町城内八森下117/電話0184-55-3165

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