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【蔵元訪問記】高砂酒造(北海道・旭川)
2025.03.10更新
【蔵元訪問記】大和川酒造店(福島県/喜多方)
磐越西線の「喜多方」駅を降りると眼前には飯豊(いいで)連峰や磐梯山などの山々。ここからどこを歩いても、山並みが目に映る。この自然の恵みが豊かな地で、江戸時代中期から酒造りを続けている大和川酒造店。
寛政二年(1790)創業以来、10代目となる佐藤雅一氏(45歳)が、3年前に社長に就任。杜氏は弟の専務取締役杜氏・哲野さん。大和川酒造店の酒造りについて哲野杜氏に伺うと。

「自分が目指す酒は食、日常に寄り添って、そんなに派手さはないけれど食事を引き立たせる酒。定番の純米辛口は、試行錯誤を繰り返して蔵を代表する目指す酒となりました。海外でも人気があります。
今後は、実験的にいろいろやりたい。最近だとものすごく酸を強調した酒や、料理酒はアミノ酸をどれだけだせるかを追究したり。本来の日本酒の枠からはみ出る様な、まだ表現されてない酒を日本酒のカテゴリの中に見つけていきたい。
もし醸造用乳酸がなくなったときでも、蔵元の足元のものだけで造る、という指標に合致させ、「日本酒」が米と水だけで出来上がることを証明するためにも、生酛(きもと)造りを少量ですが7.8年からやってます。速醸酛(そくじょうもと)と比べると、さまざまな菌が関わり、移り変わっていく様子が面白いです」
大和川酒造店が造り出す酒は地酒ではなく、「郷酒」だと、蔵元と杜氏の兄弟お二人の見解は一致する。
杜氏はやりたいことをやるので、方向が違うと軌道修正しますが、造りについては彼を信じてあれこれ言わず、できたものをどう売っていくかが僕の役割ですと、佐藤蔵元はその先にある100年先を見据えた酒蔵の経営に邁進する。新社長の思惑は・・・。



「郷酒」の柱
●社長に就任して3年。お忙しいですか?
web系の会社で仕事をしていましたが、酒問屋で経験積んで26歳で戻りました。今までやっていた仕事+社長業があるので、忙しいです。やっとこれからのビジョンが見えたので、今後はそれに向かっていきます。

自社農場「有限会社大和川ファーム」があり、米は30年前から作っていました。現在では60ヘクタール以上の田んぼを所有し、酒米や飯米も作ります。仕込水には飯豊山の雪解け水が地下に浸み込んだ伏流水を使い、米作りにも活用しています。この水は軟水でまろやか。酒の特徴を出す要素になっています。

「地の米」、「地の水」、に加えて「地の技術」と「地のエネルギー」との4つを「郷酒」の柱とました。
蔵人の平均年齢は40歳未満で、最年少は27歳。皆地元の人間で、新しい革新への情熱をもって技術を磨き、これは地の技術となります。「地のエネルギー」については、自社で電力会社を立ち上げました。会長が震災をきっかけに、原発依存はやめて、会津の自然豊かな資源を使った電力を使うべきだと。酒造りも、電力は再生化の電力。


貼っている

今期からは木質バイオマスボイラーを導入しました。ボイラーはお湯や蒸気を作る機械で、今までの重油の代わりに、木材のチップを燃やします。重油使用量、二酸化炭素排出量共に80%削減されます。江戸時代の酒造りと同じことをしようとトライしました。
ミュージアム「四方(よも)」
●江戸、大正、昭和と仕込み蔵を新設し、その都度設備を整えてこられた。1990年には大和川「飯豊蔵」鉄骨造延床450坪の最新鋭醸造蔵が完成。新型連続瓶詰機、パストライザー(瞬間熱殺菌機)を導入されたのが2014年。これだけの投資をするには相当な覚悟が必要かと思いますが。
投資しないと成長もないと会長は考えたんでしょうね。私も同意です。「飯豊蔵」は私が小学生の時にできました。せっかく酒造設備を移転するなら最新鋭の機械を入れようということでした。4人で1500石の醸造ができるわけですから、機械の導入で効率はいいです。

会長はポジティブな人です。50年前に会長が蔵に戻ってきたときは、喜多方で一番小さい蔵でしたが、今では当時の倍ぐらいになりました。
創業当初から、大正、昭和と新設した酒蔵は「大和川酒蔵北方風土館」として観光用に利用していましたが、2024年にリニューアルしてミュージアム「四方(よも)」としました。

「ミュージアム「四方(よも)」として今は開放している
大和川酒造店の資料の展示や、多目的スペースでは地域文化発信の拠点として皆さんに活用していただきたいと思います。
今は日本全国美味しい酒ばかりの中で、他と差別化するためにも、まさに土地の特徴を生かし、地元の方はもちろん、観光のお客様にも満足いただける環境を作りました。
●こちらは待つ営業、出かけていく営業、販路についても攻めてますね
問屋、酒屋、輸出、生協等の売り先の他、DMは年4回3万通送ります。
輸出で一番多いのがブラジル。ブラジルへの日本酒輸出量の1割が大和川酒造店の酒なので、結構な量がいきます。アメリカ、台湾、カナダ、オーストラリア、イギリスにも。日本料理店がどこでも増えているので。これからは輸出未開発のアジア圏に行きたいですね。
佐藤蔵元は、幅広いジャンルの音楽に関心が深く、DJやバンド経験が豊富。弟の酒造りに信頼をおき、時に、出来上がる酒にエンターテインメント性を生み出して、新たな日本酒ファンを日本国内外に獲得していく。ただ何に向かっても「郷酒」としてのブレはなく、目指すとおり、これが100年先の生命線となるはずだ。
大和川酒造店/福島県喜多方市字寺町4761/ TEL. 0241-22-2233