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【蔵元訪問記】蔵元訪問記/金升酒造(新潟県)
2024.12.10更新
【蔵元訪問記】笹一酒造
「すべては山からということをテーマに考えると腑に落ちます。山があるので、フルーツがあって、ワインができ、山からの水が良いので日本酒があり、地の利を生かして武田信玄が城をつくり、甲斐の国が発展していきました」と語るのは笹一酒造の当主・天野怜氏(45歳)。笹一酒造のメインブランド「笹一」の笹は酒を意味し、一は酒の日本一を目指すという思いが込められ、『八咫(やた)の鏡(三種の神器の一つ)』に縁取られた「笹一」は、大正8年(1919年)から現在にまで引き継がれている。天野氏は、この「笹一」に加えて新ブランド「旦」(だん)を立ち上げ、山梨から世界を見据える。
醸造からワイナリーの経営学まで
●笹一酒造に入られてどのぐらいですか?
10年前、私はロサンゼルスの南カルフォルニア大学に留学、大学卒業後、ファッション関連の広告会社で働いたのち、故郷の山梨に戻り、家族経営の酒蔵に入りました。
実は、当初お酒業界で働くとは思っていませんでした。しかし、幼い頃から祖父母の家に出入りし、一族の冠婚葬祭に参加することで、私たちの家族らしさが自然と身に付いていたんです。この経験が、今の蔵経営の判断基準に大きく影響しています。
●酒蔵を継ぐにあたってなさったことは?
山梨大学のワイン・フロンティアリーダー養成プログラムを受験し、山梨大学認定ワイン科学士の資格を取得しました。
年間140時間の授業で、授業の終わりには必ずレポートの提出がありました。製造から科学的な側面で研究したり、ワイナリーの経営学まで、同じ醸造酒として日本酒にも通じるところがありました。
販路はアメリカ、中国、シンガポール、ドバイなど
●2013年から手造りにシフトされていますね。
もとは1万石売っていた酒蔵で、従業員も120人くらいいたこともありました。敷地は3000坪あります。
ちょうどその頃、機械の入れ替えの時期で、そのタイミングで、量を売るより1本の価値を高める酒造りをりすることにしました。今の製造石数は2000石余りで、従業員は35人ほどです。これを契機に、「旦」(だん)が誕生しました。
●『旦』はどんなお酒ですか?
『旦』は蔵が所在する富士御坂山地から湧き出る清涼な地下水を用い、全国からの最良な酒米で醸す日本酒です。
低温でじっくりと発酵させることで、旨味と酸味の最良なバランスを表現。季節に合わせた味わいで、食中酒の極みを追求しています。食と必ずペアリングされるワインの様に、日本酒で新たなスタンダードを世界に示すことを目指しており、現在は日本国内だけではなく、アメリカ、中国、香港、シンガポール、ドバイに輸出しています。
山梨は非常に水質の良い地域
●アプローチをワインに寄せていくというのが面白いですね。
山梨は、その豊かな自然と山々に囲まれた地域で、多様かつ豊富な山の幸を楽しむことができます。この地域独特の食文化に合わせ、酸の切れが良く、味わい深い日本酒を造ることを目指しています。
『笹一』ブランドは、地元産の米を使用し、土地の味わいを伝統的な酒造りで表現しています。一方で『旦』ブランドは、異なるアプローチを取り、より多くの方々に食事と共に楽しんでいただけるような日本酒を目指しています。
これら二つのブランドを通じて、私たちは地元山梨の味と文化を広めていきたいと考えています。
●山田錦も山梨でできるんですね?
山梨は非常に上質な水質で知られており、日本国内のミネラルウォーターのほぼ半分近くがこの地域から供給されています。
この地で育まれる山田錦は、その高品質な水の恩恵を受け、特に優れた品質を誇ります。フルーツの産地として名高い山梨ですが、実はその水質の良さから、高品質な米作りも可能な土地です。
私たちは地元の農家と契約栽培を結び、上質な山田錦を育てています。
70年前からワイン醸造も
●ワインも造られている。
富士のふもとに位置するこの自然豊かな地域は、「富士御坂清流水系」と呼ばれる純度の高い水源を有しています。この特別な水は不純物が少なく、ミネラルも控えめで、日本で稀に見る質の高い水源です。
またここから10分の距離には、ワイン造りで知られる勝沼地区があり、70年以上続くワインブランドも自社ブドウ畑で栽培から醸造までしています。
日本酒蔵でありながら、私たちは自社でワインも製造し、地元のブドウで独自の味わいを生み出しています。日本酒とワインの生産を通じて、地域の自然と文化を活かした酒造りを目指しています。
●今後の抱負を聞かせてください。
『旦』は来年、ブランド設立より10周年を迎えます。これまで品質向上に注力してきましたが、今後は山梨県の特性をより取り入れていきたいと考えています。
『旦』には、富士山の頂から迎える日の出、新たな始まりを照らす天の光という意味が込められており、日照量日本一の山梨の酒というアイデンティティを持っています。
つまり、富士山からの清流を纏う天の酒です。「富士清流天酒」のキャッチフレーズで、 この土地に向き合いながら、さらに世界の人に「旦」を届けていきたいと思います。
【笹一酒造】
〒401-0024 山梨県大月市笹子町吉久保26