蔵の味-宮泉                                                             

2026.05.27

全国各地「蔵の味」を求めて旅をする

日本酒をこよなく愛する呑む文筆家が、地元でしか醸せない唯一無二の「蔵の味」 を求めて全国各地の酒蔵へ旅する連載。
第 6 回目は、福島県会津若松市の「會津宮泉」を造る宮泉銘醸へ伺いました。

宮泉銘醸(福島県会津若松市)

 全国区の人気銘柄「冩樂」を造る宮泉銘醸のもう一つの顔として、近年着実にファンを増やしているのが「會津宮泉」だ。この酒は創業の昭和30年から受け継ぐ銘柄だが、蔵元杜氏の宮森義弘さんが蔵を継いでから手がけた「冩樂」が売れるようになると、気がつけば知る人ぞ知る存在に。

「冩樂」と等しく力を注いでいたものの販路を地元に限定していたため、福島でしか買えないレア酒として、宮泉銘醸フリークから支持されていた。 

ふくよかな甘みの「會津宮泉」に合う福島名物のイカにんじん
新鮮な馬のレバ刺しなどの馬刺しも「會津宮泉」が進みすぎる!

しかし、2019年から徐々に販路を広げ、今では「冩樂」に並び全国の日本酒愛好家に広く知れ渡るように。「冩樂」のラインナップにはない貴醸酒や酵母無添加酒など、新たなジャンルの製法に挑戦しているのが最大の特徴なのだが、その影にはこの酒を担う蔵元の弟で専務を務める宮森大和さんの熱意と葛藤があった。

蔵元のサポート役から「會津宮泉」を担うその先へ

蔵元杜氏・宮森義弘さんの弟で専務の宮森大和さんが政治家の秘書業を経て、宮泉銘醸に入社したのが2015年。私が彼と最初に対面したのも同年、拙書『蔵を継ぐ』(双葉文庫)の出版記念会の席だったが、当時は全体的に線が細く頼りない印象だった。

緊張のためかほとんど喋らず、終始表情は暗く堅い。実行力は超速のマグロ並みで溌剌とした兄(蔵元)とは対照的で、果たして宮森義弘の右腕が務まるのか不安になったことを思い出す。

「日本酒業界の人たちに初めて紹介される場で、最初が肝心ということもあり、社長からは“お前は酒造りも業界についてもわからない部分が多いから喋らなくてもいい”って言われていました」

宮森義弘社長の右腕として活躍する、専務の宮森大和さん。公私にわたり社長をサポートし続ける

 そう笑う大和さんだが、実は当時から宮泉銘醸の専務として兄を支え蔵(酒)をよくしていこうという強い熱意を持っていたという。出版記念会の翌年に蔵を訪ねると、大和さんの変貌ぶりは著しく、すっかりたくましくなり、生き生きと楽しそうで、快活に仕事をしていた。

「社長は清掃だけではなく整理整頓にも厳しい」と大和専務。酒造りに使う道具類はきっちり整えられている

さらなる彼の転機は2018年。世界最大級の日本酒コンテスト「SAKE COMPETITION」で『會津宮泉』が1位を獲得した際に、蔵元から『冩樂』は俺だけど宮泉はお前に任せてみたい」と言われたことがきっかけである

早朝に行う蒸米の風景。米の甘い匂いが漂う

「単なる社長のサポート役になるのではなく、一つのブランドに責任を持ち、『冩樂』ではやらないようなおもしろいことを形にしてほしいと、社長に言われました。プレッシャーはありましたが、社長についていくだけでは宮森義弘の本当の支えにはなれないと思い始めていた時期なので、酒蔵に新しい風を吹き込むためにも、『會津宮泉』を担うと決めました」

宮泉銘醸に新風を吹き込む挑戦

 かくして「冩樂」に対してどのような酒を造るのか、相当悩んだという。

「僕は社長が設計し、造り上げた『冩樂』が誰よりも好きだと思っているので、どういう味を造りたいかと言われても正直、「宮森義弘が造る味」に近づいてしまう(笑)。だから最初は技術的なことに着目し、社長がやらない製法にチャレンジしたいと考えました」

宮森社長と大和専務。二人はいつも行動を共にし、常に相談しながら酒蔵の仕事を進めている

 まず手がけたのが、発酵もろみを造る際に水を使わず酒で仕込む貴醸酒である。

「他社の貴醸酒をいろいろ飲みましたが、自分が苦手な熟成系が多く、甘いタイプが多かったので、きれいなタイプの貴醸酒を造ってみたかった。それが動機です」

 2019年にリリースした貴醸酒は、凝縮された甘みとサラリとしたきれいな余韻が美しく、これまでにはない軽快な貴醸酒また新たな宮泉銘醸の新基軸として注目を集める。さらに、酵母無添加の酒や、複数の酒をブレンドしたアッサンブラージュも手がけ、今まで知る人ぞ知る地酒だった『會津宮泉』は年々多彩になり、販路も全国へ広げていった。

 そして、日本酒業界で密かに話題を呼んだのが、日本酒スパークリングを推進する一般社団法人「awa酒協会」への加入である。宮森社長はあくまでも王道の日本酒造りを貫く蔵元として知られていたため、「awa協会」への加入は日本酒業界をざわつかせる。蓋を開けてみれば、それは大和専務が手がける『會津宮泉』の挑戦の一環だったのだ。

 ところが、「會津宮泉」のスパークリングはいまだにリリースされていない。理由を聞くと大和専務は苦い顔で言う。

「うちが求めるレベルで、しかもawa協会の規定に則って造ろうと思うと、めっちゃくちゃ難しい。どうしても出したくないオフフレーバーをなかなか解消できなくて。それに、シャンパンの真似事ではない日本酒でしか表現できないスパークリングってどういう味なのか、明確な答えがまだ出ない。いや〜実はもう試作して16造り目(笑)。でも、ここにきてようやく答えがちょびっと見えてきたような気がしています」

とりあえず試作したものを商品化するのではなく、徹底的に高品質な酒を追求する。このシビアな姿勢こそが宮泉銘醸の基本スタンスだ。

「『會津宮泉』を任されているといっても、造りの細部にわたってオール監修は社長ですし、絶対にうまい酒を造ると決めている社長は特に唎き酒が厳しい。今でもできた酒を飲んでもらう時が一番怖い。だからこそ、やりがいがありますし、社長に認めてもらう酒を造らなきゃならないと思っています」

悩みながら進化させていく「會津宮泉」の酒質

「これからは新しい技術に挑戦するだけではなく、「會津宮泉」のベースになる味を確立したい。宮泉ってこれだよね、というような酒を造りたいなと。ただ、どうしても『冩樂』に寄せてしまいたくなるのが悩ましい。うちの酒のカラーを変えずに『會津宮泉』の味を確立するには、クリエイトが必要なのですが……僕はクリエイト系が一番苦手な分野(笑)。今はここの壁にぶつかりながら試行錯誤している段階です」

酒蔵の門前に集まってきた蔵人や事務員のみなさんと。和気あいあいとした雰囲気が宮泉銘醸の社風だ

 いずれは『冩樂』と双璧をなすような酒を造るべく、大和専務の悩みは尽きないが、「特定名称とか関係のない、飲んで率直に“うまい”と思わせる酒を造りたい」という想いはハッキリと言葉にする。

宮森社長が常日頃から掲げている絶対にうまい酒を造るモットー「100人いたら100人が美味しい酒」の哲学は、大和専務もしっかりと受け継いでいた。

<著者プロフィール>呑む文筆家・唎酒師/山内聖子

1980年生まれ、岩手県盛岡市出身。22歳で飲んだひと口の日本酒がきっかけでライターの道へ。駆け出しの頃は浜松町時代の名酒センターでバイトしたことも。現在は酒にまつわることについて各媒体で執筆中。著書に『蔵を継ぐ』(双葉文庫)、『いつも、日本酒のことばかり。』『夜ふけの酒評 愛と独断の日本酒厳選50』『日本酒呑んで旅ゆけば』(共にイーストプレス)、『酒どころを旅する』(イカロス出版)、『BARレモン・ハート意外に知らない酒の基本知識』(双葉社)など。

宮泉銘醸/福島県会津若松市東栄町8-7/0242-27-0031

https://miyaizumi.co.jp

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