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大黒屋深沢 sakeてらす
2026.10.16更新
飛騨古川で、デフォルトの「白真弓」
▶まるで鑑定士
飛騨古川の居酒屋では、「酒」と注文すればデフォルトで燗が出てくる。夏でも燗なのだ。地元の人たちのルーティーンは、最初の一杯こそビールだが、二杯目からは「白真弓 上撰」か「蓬莱 上撰」の燗へと移る。この伝統が若い住民にも浸透しているという。


飛騨古川では「白真弓」の蒲酒造場と「蓬莱」の渡辺酒造店という2大巨頭が圧倒的なシェアを誇り、地元ではこの2銘柄以外の日本酒はまず飲まれない。町の居酒屋には「熱燗 地酒」とだけ書いてあり、「白真弓」か「蓬莱」の2択となる。酒屋にも「白真弓」と「蓬莱」がドンと鎮座し、大手のお酒や流行りの銘柄は影をひそめている。

13代目当主の蒲敦子さんは語る。
「地元の方々は私たちのお酒しか飲まないので、まるで鑑定士です。『味ちょっと変わった?』と教えてくれる。そうやって長年地元で飲んでもらっているおかげで技術を向上させることができている。私たちのお酒は、燗の町に育ててもらった」
そんな伝統が息づいているからこそ、「全国燗酒コンテスト」お値打ちぬる燗部門で3年連続受賞(2024年・2025年は最高金賞、2026年は金賞)という実績にも、大きな説得力が生まれる。
白壁の土蔵が並ぶ通りに沿って透き通る瀬戸川が流れ、約1,000匹の鯉が泳ぐ情緒あふれる町並み。そこには地元の人々の日常が垣間見える、素朴で温かい空気が漂う。その町の中に蒲酒造場はある。
酒蔵直営の売店には「白真弓」の全ラインナップが所狭しと並び、創業300年の歴史を感じさせつつも、モダンな雰囲気が買い物心をくすぐる。「醸造所限定酒」や「蔵元の私がこんなにおいしいにごりはないと思っている」といった魅力的なキャッチコピーに、ついつい手が伸びてしまう。


売店にはインバウンド向けに英語で描かれた手書きの酒造り図が掲示されていたり、敦子社長直筆の読み物「やんちゃだより」が置いてあったりと、見どころ満載だ。道中の立ち寄りスポットとして旅の思い出に華を添えてくれる格好の場所である。
▶飛騨古川の魅力
隣接する飛騨高山は、江戸時代の城下町や代官所の面影を残す「古い町並」が国重要伝統的建造物群保存地区に選定され、国内外から多くの観光客が訪れる飛騨地方の玄関口。一方飛騨古川には、絢爛豪華な屋台行列や迫力あふれる起し太鼓で知られる「古川祭」があり、重要無形民俗文化財に指定されているものの、目立った観光名所があるわけではない。しかしそこには、まぎれもない地域住民の暮らしが息づくゆったりとした日常がある。

この日本の原風景を求めてサイクリングツアーに訪れる外国人観光客も後を絶たないという。酒蔵の近くにある食堂では、地元客も観光客も一緒になってうどんやラーメン、名産の飛騨牛朴葉みそ、えごま蕎麦などに舌鼓を打っていた。
こうした穏やかな日常が続く落ち着いた町並みこそが、飛騨古川の魅力なのだ。そして、その町の暮らしとともに歩んできたのが「白真弓」。この300年以上の歴史を守り続けてきた敦子社長に、今後の展望を聞いた。

「日本酒の需要が少なくなりつつある今だからこそ、長く地元に支えられてきた味わいを守るために、量を追うのではなく質を高めていきたい。うちの祖父は『1日1合まで』と決めて毎日お酒を楽しみ、父は毎日のように地元の居酒屋を飲み歩いて、ふたりとも元気に長生きしました。『白真弓』がずーっと愛され、飲まれ続けるお酒でありたいですね」
町が育んだ至高の燗酒は、キレがありながらも麹由来の甘みが際立ち、どこまでも優しさがにじむ。訪れた世界中の人たちの心まで、じんわりと温めてくれる味わいだ。
取材協力:蒲酒造場:岐阜県飛騨市古川町壱之町6-6 電話0577-73-3333
http://www.yancha.com/































