誌面ビミーで長年連載している中沢けい氏の「酔々日記」です。文士の筆遣いに、日本酒が気持ちよくあふれでてきます。

【中沢けいの酔々日記】江戸切子の盃

2022.05.25

夏の日本酒はちょっと苦手。冷酒でも、飲むと身体が火照る。寒い時に身体を暖めるにはありがたいお酒でも、夏はそれが仇になる。身体が火照るだけならいいが、蚊もよってくる。だから夏は日本酒を遠慮したいのだが。

もうずいぶん昔、スーパーの店頭ワゴンで江戸切子の盃を買った。紺色のガラスで、盃の底にだけ切子の文様が入っている。買物に出たついでに、手持ちのお金で買えた盃だから、それほど高価なものではない。この盃の出番は夏にしかない。冷やしたお酒をほんの一口だけ飲もうかなと誘惑の盃だ。

入梅鰯と言う、梅雨の頃の鰯は脂がのってうまい。麦烏賊と言う。麦の実る頃の烏賊はまだ大きく育っていないので、柔らかい。麦烏賊は刺身より煮つけが好きだ。鰹が並ぶ魚屋の店先に鮎の稚魚が出てくる。天婦羅にしてもいいのだけど、山椒と一緒に甘辛く煮つけたので、冷酒をほんの一口だけ飲むのも楽しい。川も海も初夏の気配だ。

これ以降は有料会員様限定記事となります。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
※無料会員登録後に、ログインのうえ、有料会員登録を行ってください。
※無料会員にご登録いただきますと、更新情報などのメールマガジンが配信されます。

過去記事一覧

【中沢けいの酔々日記】 しし鍋を食べに行く

2024.12.05更新

【中沢けいの酔々日記】 酒、塩、昆布

2024.09.30更新

【中沢けいの酔々日記】 枝豆から大豆それから

2024.08.05更新

【中沢けいの酔々日記】 江戸切子の盃

2024.05.30更新

【中沢けいの酔々日記】 てんぷら山の上のお銚子

2024.03.29更新

【中沢けいの酔々日記】 甘酒で暖まる

2024.01.29更新

【中沢けいの酔々日記】突然、おでんの季節

2023.11.30更新

【中沢けいの酔々日記】どじょうを食べに行く

2023.10.27更新

【中沢けいの酔々日記】四合瓶の天下

2023.08.01更新

【中沢けいの酔々日記】灘の生一本

2023.05.31更新

【中沢けいの酔々日記】春のひとしずく

2023.03.30更新

【中沢けいの酔々日記】今は昔の一升瓶

2023.01.30更新

【中沢けいの酔々日記】酒粕を買う

2022.11.30更新

【中沢けいの酔々日記】泡盛と月夜

2022.09.28更新

【中沢けいの酔々日記】あおうおを食べる

2022.07.23更新

【中沢けいの酔々日記】 お酒と汁もの

2022.01.24更新