誌面ビミーで長年連載している中沢けい氏の「酔々日記」です。文士の筆遣いに、日本酒が気持ちよくあふれでてきます。

【中沢けいの酔々日記】泡盛と月夜

2022.09.28

泡盛はインディカ米で作られる蒸留酒だ。日本ではタイで作られたインディカ米が多く出回っているのでタイ米と呼ばれることもある。粘り気の少ないぽろぽろとした食味のお米で、私の母などは外米と呼んで敬遠していた。一九四五年の敗戦後の食糧難の時代の配給の記憶と米の味が分かちがたく結びついていた様子だ。

泡盛はインディカ米から作られると聞き、あの軽やかな飲み心地はそもそもの材料からして、ジャポニカ米から作られる日本酒とは違うものなのだと納得すると同時に、青い海の水平線の向こうから米を積んだ船が、沖縄の島々へ到着する様子がなんとなく想像された。

泡盛がいつ頃から作られたのかは詳らかに知らないが、一六〇九年の島津による琉球侵攻の頃にはすでに泡盛が製造されていたようで、薩摩による焼酎作りは泡盛の製造法の影響を受けているそうだ。何が言いたいのかと言えば、泡盛は地球を覆う大海原の航路が開けたためにできたお酒だと、そういう話をしてみたくなった。欧州からアジアへと盛んに船が行き交う中で、東シナ海と太平洋を分ける琉球列島で、月夜が似合う泡盛ができたと想像するのが愉快だった。

 泡盛には月夜が似合う。

 月が美しい晩にはからからに泡盛を入れて飲みたい。からからは半円形の胴に細長い注ぎ口と首長の入れ口がついた酒器で、胴の中に玉が入っているものもあり、注ぐ酒が無くなるとからからと音を立てるところからそういう名前なったとか。

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