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「京都大衆酒場で、ちろりから注ぐ冷や酒」
2024.08.31更新
人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
四ツ谷で、長野に旅気分
東京で、特定の地方料理を出す店に当たると、ちょっと旅気分になって楽しい。
この店は信濃町のボクの個展の帰りに、四ツ谷荒木町で偶然出会って入った店。
荒木町は東京でも有数の飲み屋街だけど、ボクは数件しか入ったことがなく、あまり知らない。いや、考えてみると新宿のゴールデン街も思い出横丁もあまり知らない。
そういうところを飲み歩いたり、新しい店の「開発」をすることに、若い時からあまり興味がなかった。苦手と言ってもいい。
この店入った理由は、蕎麦と書いてあったから。その時の気分で、蕎麦屋のようなところで飲みたかったのだ。
全く知らない店で、しかも細い階段を上る2階。ちょっと勇気が必要だった。
上がっていたら狭い店だったが、テーブル席に二人連れのお客さんが1組と、カウンターにひとり客がいただけだった。
静かだし、蕎麦屋で飲みたい気持ちにはぴったりだった(シメの蕎麦は食べても食べなくてもいい気分)。
ビールを頼んで、カウンターの黒板にあった「岩海苔たたみいわし」と「くるみ味噌冷奴」を頼んだ。
暑いからビールを頼んだが、すぐ日本酒に移行する気満々だ。というのはカウンターの前にずらり日本酒の名前が書いてあったからだ。しかもそれがほとんど長野の酒。
「信州珍味」として「いなごの佃煮」「ざざ虫」「蜂の子」があった。どれも食べたことはある。頼まなくてもそれがあるのが嬉しい。酒の珍味で一気に長野旅気分になる。
岩海苔たたみいわし、あってもよさそうなものだが、初めて見た。そして予想通りのおいしさだった。あっという間にビールはなくなる。それで「大信州」の純米をもらう。うまい。
そしたらくるみ味噌冷奴が来た。青ネギがいっぱいのっている。うまい。これで酒、最高だ。その酒を小さなコップ半分くらい飲んだところでやっと「お通し」が来た。ずいぶんゆっくりしている。全然かまわない。
それがマグロの刺身三切れにミョウガとネギとカイワレ大根とワサビが添えられ、水なすが一切れ。そして擦った山芋。いやぁ、もうこれだけで3杯は飲める。大金持ち気分。静かだが非常に楽しい酒盛りとなった。
久住昌之 オフィシャルウェブサイト (sionss.co.jp)
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