人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

「野沢菜の天ぷらに救われた」

2023.07.31

 

松本に行くと必ずと入る蕎麦屋があった。そこは今度なくなっちゃうそうなんだけど。あえて屋号は書かない。

 信州だから、石を投げれば蕎麦屋に当たるほど、蕎麦屋は多い。そしてだいたいどこに入ってもおいしい。

 ボクの行く店は、蕎麦は差し置いて、蕎麦前が、つまり酒の肴がおいしかった。ボクがとくに好きだったのは、馬肉の煮込み。これはビールにも酒にもぴったりで、ボクは普通の煮込みより好きだった。

 ところが、コロナ禍で、その蕎麦前がすっかり変わった。変わったというか、メニューが極端に少なくなった。これは悲しかった。

 ボクの作った曲に、心の悲しみをストレートにぶつけたマイナーブルース「味が落ちた」がある。ライヴでやると必ず大ウケする。大好きな店の味が落ちた、というテーマは大体の人の心に響くようだ。

 だけどその蕎麦屋は、味は落ちてない。味は落ちてないけど、肴が減った。これも悲しい。蕎麦がおいしいし、居心地もいいから行くんだけど、入ってビールを頼み、メニューを見ると、悲しくなる。

 今年の夏行ったら、コロナが落ち着いてきて、パーテーションもなくなったんだけど、メニューは少ないままだった。

 もう行かないかもしれない、と思ったら、閉店、だそうだ。あの馬肉の煮込みとはもう永遠に会えない。と思ったらもっと悲しくなった。

これ以降は有料会員様限定記事となります。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
※無料会員登録後に、ログインのうえ、有料会員登録を行ってください。
※無料会員にご登録いただきますと、更新情報などのメールマガジンが配信されます。

過去記事一覧

「飛騨古川で、熱燗と中華」

2024.03.31更新

「修善寺のアジ寿司弁当とカップ酒」

2024.02.29更新

「さくら納豆」に、大いに戸惑う

2024.01.31更新

寿司屋のカニクリームコロッケ

2024.01.29更新

「石川県で、手取川を呑みながら」

2023.11.30更新

「ちょっとだけ遠い蕎麦屋で、祭りの一杯」

2023.10.31更新

「長野でおいしい野菜と旨い酒」

2023.09.30更新

「函館の冷凍イカと五稜」

2023.08.31更新

「奈良でおからで地酒」

2023.06.30更新

「門司港の激シブ角打ちで、数年ぶりに飲んだ」

2023.05.31更新

「修善寺で蕎麦屋酒」

2023.04.30更新

「名古屋・堀田で見つけた名店」

2023.03.30更新

「浅草で旅の最後に立ち寄る店」

2023.03.03更新

「和歌山・田辺の炉端焼き、感動」

2023.01.30更新

「福井・若狭で、二泊三日の旅酒」

2022.12.31更新

道東の紅葉と天の川で、宿酒

2022.11.30更新

「新幹線の鶴亀と、究極の肴」

2022.11.01更新

「呼子のイカのサルサフリットで燗酒」

2022.09.30更新

「長崎駅で立ち飲みした日本酒」

2022.08.30更新

「有馬温泉で湯上り散歩夕飯酒」

2022.07.31更新

「神戸元町の老舗にて、金盃で乾杯」

2022.06.30更新

「津軽で、純米吟醸の燗酒に驚く」

2022.06.02更新

「阿部野の老舗で雨の昼酒に酔う」

2022.05.01更新

「浜松、鰻肝焼きとタコブツで一杯」

2022.03.31更新

久住昌之のふらっと旅酒 #001 新潟編

2022.02.14更新