人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

「鈴鹿でいい店にあたった夜」

2025.01.29

 鈴鹿に行った。鈴鹿というと鈴鹿サーキットしか知らないが、ボクはF-1とかにも興味がないので、全く未知の街だ。そういう見知らぬ土地を歩くのは楽しい。

 見知らぬままに、宿は近鉄鈴鹿線の終着駅・平田町の駅近くにとった。チェックインして、夕食がてらよさそうな居酒屋を探しに出た。ボクはこういう時本当に優柔不断になっちぇって全然決まらないで、歩きまわちゃうんですね。この時も気がついたら宿から30分ぐらいの遠いところまで来てしまった。

 腹は減るは喉が渇くはいい加減にしろ俺、という頃に見つけたのが「やまが」すごく高級そうでもないし、シャレカッコつけてもないし、大衆居酒屋という感じとも違う。


 同じ読み方の「山家」という渋谷の居酒屋は24時間やっていて、終電を無くしたミュージシャンが最後にたどり着く安居酒屋だった。若い頃はお世話になりました。脱線御免。

 さて、店は開いたばかりのようで、スッとカウンターに入れたが、最初のビールを飲んでいるうちに次々に客が入ってきた。駅から遠いし、きっと地元の人気店だ。

 まずは豚バラ串、そして「明太焼きなす」を注文。どういうものか全くわからん。

 出てきたそれは思わぬ形状だった。最初、注文を間違えたのかと思った。器いっぱいに入っているのは、山芋のすりおろし。真ん中に青海苔。その周囲にピンクオレンジの破片が埋まっている。これが明太?箸をそろりと入れたら、底からナスの切り身が出てきた。おお、そういう。

 山芋を絡めるようにしてそれを食べると…お、焼きなす!ナスを焼いた時特有の香ばしさが口に広がり、辛くない明太子の味が山芋と絡み、絶妙。うまい。びっくり。この一品でこの店にして正解と確信。

 豚バラ串もよかったが、追加した「肉豆腐鍋」がほぼすき焼きで、牛肉春菊最高。

 嬉しくなって地酒をもらう。聞いたことのない「妙の華(たえのはな)」。これがまた旨いときたもんだ。鈴鹿、いいとこなんじゃないのぉ?なんて、たった一軒入っただけで。

 でも一軒でも自分にとって居心地のいいおいしい飲み屋を知っていれば、どんな街も輝いて見えるもんです日本中。ってそれは酒飲みだけか。

 さらに追加したタコ串がまたうまいのなんの。近畿はタコうまいですからね。対岸の知多半島の日間賀島はタコが名産で、タコしゃぶに感激したのを思い出す。また話脱線。

 気がつけば店は賑わっていて、いい雰囲気。店員さんも感じいい。鈴鹿は翌日1日歩き回り、あと2軒いい店見つけたので、大好きな土地になったのでした。

 

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