人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

「新潟ひとり二次会」

2025.10.31

 BS12トゥエルビで不定期にオンエアされている「久住昌之のニッポン箸休め散歩」のロケで、先月に続き新潟に行った。弥彦山周辺を歩き、夜は市内の老舗居酒屋の取材。撮影が終わり、引き続きその店で飲んでもよかったけど、常連のお客さんの邪魔もしたくないのでとりあえず駅前の宿に帰った。

 さて仕事から解放されて気ままに飲もうと思い、何度か行った店に電話したら、ご主人が出て「今、福井にいるんです」とのこと。あれま。しかたなく、ご近所放浪に出る。

 小さめな個人居酒屋でよさそうなところが何軒あった。本当にいいかどうかはわからない。でも新潟の居酒屋レベルって高いような気がする。さらにあてどなく歩き回る。

 最終的に入った店は、カウンターが6席ぐらい、奥にテーブル席が二つのこぢんまりした店。奥にはかなりデキ上がった会社員グループ、カウンターにもサラリーマン二人連れ。全員オヤジ。でも落ち着く。気づかれなさそうだし。

 カウンターに着いて、生ビールをもらう。取材で地酒をちびちび飲んでいたので、リセットだ。お通しに小ぶりなサバの味噌煮が出てきた。よく食べるサバ味噌と違い、白味噌。食べたら甘くも塩っぱくもなく程よい味噌味。初めてのタイプ。旨い。これはアテに最高。薄めで大きめのコップもよくて生ビールが実にうまい。ひとり打ち上げ気分高まる。

 少し時間差で、旅の者らしき男性ひとり客が、二人入ってきた。調べて入ったのか飛び込みか、初めてらしい振る舞い。一匹狼仲間だ。

 サバ味噌がまだある状態で、地酒「朝日山」の冷やをもらう。父の実家は新潟。だが父はまったくの下戸だ。でも祖父の家にあった酒はいつもこの朝日山だった。

 燻製がいろいろある店で、すべて自家製のようだ。明太子の燻製をもらう。取材でいろいろ試食したので、こんなのがよい。

 店はまだ若い店主とその母親らしき女性二人でやっている。こういう店もおいしいことが多い。常連さんたちはますます声が大きくなり楽しそうだが、ちっともうるさくはない。むしろ一人で飲んでいて心が和む。

 隣の二人は、それぞれスマホを見たり、店の中を見回したりしながら、酒を楽しんでいる。ひとり酒に慣れている感じ。周りが気にならない感じ。こういう時、最近はしばしば「…観ています」とか声をかけられることがあるのだが、この晩はそれもなくてゆったりできた。同じ酒をもう一合もらう。

 そして少ししたらラストオーダーとなった。わりと終わるのが早い店だった。でも十分だ。いい店は終わるのが早いものだ。

 少し腹が空いていたので、手打ち蕎麦の小盛りを頼む。気が利いてる。いい締めになった。

新潟はラーメンもうまいが、こんな時間にラーメンはよくないな、と思っていたのでその意味でも助かった。翌日聞いたら、共演者は宿で寝しなにコンビニで買った新潟ラーメンのカップ麺を食べて今後悔していますと笑っていた。

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