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「琵琶湖の小さな島で飲んだ」
2025.12.31更新

人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
「羽村の寒い夜、蕎麦屋呑み」
青梅線の羽村市で講演をして、終わって夜7時過ぎに会場を出たのだが、寒い。東京のかなり山寄りなので、都内より2~3度は気温が低い。新宿から中央青梅線で50分ぐらい、降りたことのない駅なので、もはや十分旅気分だ。

お腹は空いてるし、一人で90分話して、その後サイン会を小一時間したので、とにかく自分にお疲れ様の一杯をこの辺でやりたい。
と思って駅の近くに戻って店を探したのだが、なかなかいい店がない。とにかく寒いからあったかいものが食べたい。
「おでん」と書いてある店があって、食べたくなったが店内が全く見えず、耳を澄ますと常連ぽい男女の笑い声が聞こえてきて、顔バレしたら面倒くさいな、と思ってパス。
焼き鳥屋が何軒かあったが、いずれも常連さんが週末のお楽しみで混んでる様子。それはそうだよな、土地がら。店も少ないし。
ペルー料理、スペイン料理は、今日の気温と疲れには向いていない感じ。
中華料理でもいいかと思ったが、やっぱり日本酒が飲みたい。よさそうなラーメン屋で熱燗と中華、と思ったらお休み。鰻は違うなあ。ちょっと高そうだが美味しそうな和食屋をようやく見つけたら、予約で満席。
店を探し始めた頃通りすぎた蕎麦屋を思い出し、あそこしかないな、と思った。もう30分ぐらい彷徨っていて、下半身が冷え切っている。
その蕎麦屋は手打ちと書いてあるが、うどんも置いてあるような大衆的な店に見えた。まず店名が自分のよく知る近所の蕎麦屋と同じだった。そこにも親近感を覚えた。
入った。あったかい。そこに「いらっしゃいませ」と元気な若い女性店員の声が重なり、大雪の中ようやく見つけた民家に転がり込んだ気持ちになった。
コートを脱ぎ卓に付き品書きを見ると、煮込みがある。おでんがある。鍋焼きうどんもある。やったあ、もう大丈夫だ。瓶ビールはキリンだ。酒は銀盤がある。万全だ。
寒いけど、喉も渇いた、ビールを一杯飲みたい。それをもらって、さらにメニューを見ると「あつあつ煮込み豆腐」というのがあった。これだ!

ビールで喉を潤し、温かい店内で生き返る。そしてやってきた煮込みどうふ。鍋焼きうどんの器に、汁に浸かった豆腐がネギと白菜と煮込まれ、揚げ玉が振りかけられ、その上に盛られたたっぷりのおかかが踊っている。最高。
レンゲのようなものですくって一口食べ、あちちっとなりながら、
「こ、これだ!」
と叫びたくなった。寒くてひもじい今の俺が酒と共に食べたかったのはまさにこれ、ズバリこれであった。膝を叩きまくりたい気持ち。そばのつゆに揚げ玉の油が溶け、熱い絹ごし豆腐を包んでいる。ネギが嬉しい。白菜も嬉しい。
すぐに銀盤の熱燗を一合もらう。もういい。ここに来てこれをやるために、今日の1日の苦労はあった。そう思えた。
これですっかり身も心も温まり、「蕎麦屋の焼き鳥」をもらう。この少し甘いタレに一味を振ってネギと食べるのもたまらない。

さて、締めはあったかいきつねうどんにするか、冷えも抜けたから冷たいもり蕎麦をたぐって蕎麦湯で締めるか。考えながら飲む旅の時間がこたえられない。
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