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「羽村の寒い夜、蕎麦屋呑み」
2026.01.31更新

人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
「博多で飲み直し酒が、楽しいことよ」
仕事で福岡に行った。
福岡は天気だったが東京が雪で、お昼の飛行機で帰るはずがまさかの欠航。福岡空港で足止め食らう。福岡にもう一泊だ。
その日〆切の原稿とカラーイラストの仕事があったが、さいわいノートパソコンは持ってきていたので、文章はホテルで書ける。スマホで近所の文房具店を調べて、サインペンと小さい色鉛筆セットと消しゴムとスケッチブックを買いに行った。これで絵も描ける。こういうアクシデントは逆に楽しい。
宿の部屋で文を書いて、カラーイラストはいつもより時間をかけて描いた。コンビニでスキャンしてメールで送る。終わってひと息ついたらもう夕方になったので、同行したカメラマンを誘って、近所に飲みに行くことにした。彼も連泊なのだ。
ホテルは博多の赤坂という町で、この辺りは全然来たことがない。文具店に行った帰りに「ここどうかな」とアタリをつけておいた店に行った。新しい店だったが小ぎれいで、おでんと書いてあったからまあ高くもないだろう、いいかなと入ったら、失敗だった。
注文がタッチパネルなのは嫌いだけどもう慣れた。別にいい。でもほとんどが若い女子である店員の動きがダメ。客を見ていない、店員同士の無駄話が多い、しまいにはボクの目の前で口に手も当てずあくびをした。リーダーを任されてるらしき若い男も、腕はいいかもしれないが、店全体はどうでもいい感じ。来た注文をただこなしてる。忙しいはずのカウンターの中がダラケて見える。なんだか嫌になる。
おでん3品と何か小鉢とビール一本を食べて飲んで会計して出た。ただ静かに足止めの博多を楽しみたかっただけなのだが。ま、そういうこともある。店の営業姿勢が自分の飲み方に合わなかっただけ。「苦言を呈す」つもりは毛頭ない。自分の失敗。
こうなったら博多で自分の知っている好きな店を目指すしかない。
バスに乗って中洲に行き「酒一番」を目指した。4年ぶりくらいか。ここは大好き。
いつも混んでいるが、入った時、ちょうどカウンターが2席空いた。そこにうまく陣取れる。
店員は全員元気なおばちゃん(おばあちゃんとは言わない)。テレビが小さい音でついてる。それがお客さんの笑い声やざわめきで聞こえない。最高のBGM。

おしぼりがくる、小さなお新香が出る。瓶ビールを頼んで、来るまでに注文を決める。明太卵焼きと、エビピーマン炒め。厨房に通すおばちゃんの声が大きい。


カメラマンと、仕切り直しの乾杯。ああ、ビールがうまい。さっきの店と何から何まで違う。あの店はこの店のよさを、より深く心地よく味わうための前座だったのだ。エビピーマンうまし。ここには焼き鳥も餃子もおにぎりもソーメンも玉子丼だってある。無敵の気分。
隣ら韓国から一人で旅に来た女性客で、ほとんど日本語ができないが、いろんなメニューにチャレンジしていて、楽しそう。その隣は若い男性ひとり客。ほんのり赤い顔でサワーを飲みながら、小さい鍋まで到達して嬉しそう。反対側は40代ぐらいの女性二人客。話が弾んでいる。「山芋鉄板」を頼み「わー、こういうのだと思わなかった!」と驚きつつ笑っている
おばちゃんたちは全員コマネズミのように働いているので、注文に気を使う。隙を見て頼む。
どれもこれもおいしい。客が来ては満席で断られ帰っていく。おばちゃんが何度も「ごめんなさいねー」と言ってる。入れたのはラッキーだった。みんな酔っているけど、店の中にはやわらかな緊張感があり、泥酔者や大騒ぎ客はいない。後ろの客のカレー鍋、あれもうまいんだよな。

ボクらも燗酒に変えて、さらに何品か注文して、最後はシンプルな一人前味噌鍋。心からあったまる。
最初から迷わずここに来ればよかった、とも思うが、これもまた、旅。じんわり酔いながら、まだまだ楽しくて仕方ない。
博多で飲み直し酒が、楽しいことよ
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