誌面ビミーで長年連載している中沢けい氏の「酔々日記」です。文士の筆遣いに、日本酒が気持ちよくあふれでてきます。

【中沢けいの酔々日記】酒粕を買う

2022.11.30

大阪の淀屋橋から京都の出町柳までの京阪電車が好きだ。途中、淀や中書島などを通るこの沿線は、宇治川から淀川へ連なる河川交通が盛んだったころの気分のようなものがある。

伏見と言えば、銘酒の町と知ったのは、阪神大震災の時だった。どういうわけか、うちでは酒粕と言えば月桂冠の酒粕と決まっていたのに、月桂冠がどこにある酒造メーカーなのかを、その時まで知らずにいた。

カッパのCMが楽しかった黄桜もまた伏見の酒造メーカーだ。京阪電車に乗るたびに、中書島で下車して月桂冠や黄桜の蔵元を訪ねてみたいとかねがね考えているのだけれども、まだ果たすことができていない。

十一月初旬に久しぶりに淀屋橋から京阪電車に乗った。目的地は近鉄京都線の伊勢田だったので、丹波橋での乗り換えになる。その時も伏見を歩いてみたいと頭の片隅にちょっとした誘惑が湧いた。

用事を済ませてから、京都駅で月桂冠の酒粕を買う気になったのは、きっと京阪電車で淀、中書島、伏見桃山と通り過ぎる時に頭の片隅に湧いた誘惑の名残が残っていたせいだ。

酒粕を買ったはいいけれども、いったい何を作ろうかと迷う。まず思いついたのはかす汁だ。鮭と大根、葱で作るかす汁。鰤と大根、人参、里芋など根菜をいれたかす汁も美味。

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