誌面ビミーで長年連載している中沢けい氏の「酔々日記」です。文士の筆遣いに、日本酒が気持ちよくあふれでてきます。

【中沢けいの酔々日記】 酒、塩、昆布

2024.09.30

 ようやく酷暑の夏が終わったかな。いや、いや、まだ油断がならない。どうも暑い時の日本酒が苦手というのは昔から変わらない。冷房の効いた室内で、よく冷えた冷酒をきゅうと飲む。それはそれで美味いのだが、そのあと身体の中から火照ってくる。あの感じが苦手だ。寒さしのぎにお酒を飲むことを覚えたという人がいる。寒さしのぎに飲む酒が、暑い時には逆効果になるわけで。

 秋になった。ようやく秋になった。秋になれば、自然とお酒も美味しくなるわけで、これはけっこうなことだ。今では見かけなくなったが屋台店で、コップ酒を飲んだりするのも秋口から秋たけなわの頃が、暑からず、寒からず、美味かった。空にはにこにこのお月様。満月、半月、三日月と、大空の空気が澄む季節の月はいかような月でもにこにこ笑い顔に見える。

 昆布の出汁に塩と酒で炊く野菜が美味しくなる。蕪をまるごとことことと炊き、味は塩と酒。大根をことことと炊き、塩と酒を加える風呂吹き大根もまたあっさりして美味しい。酒、塩、昆布という組み合わせが、最近のお気に入りだ。

 大学の教授会の帰りに、久しぶりに同僚の先生方を飲んだ。「昆布ってそんなに食べるものですか」と尋ねられた。昆布の詰め合わせがお歳暮の定番だったのも今は昔。酒、塩、昆布の組み合わせで、野菜を炊いたり、魚を煮たりするとあっさりとして美味いと言ってもピンとこないらしい。

で、いつのまにか松茸昆布の話になった。なぜ松茸昆布の話になったのかはよく覚えていない。いや、もう酔いが回っていたのかもしれない。「松茸と昆布の組み合わせは絶品です」と、どこの昆布屋さんの回し者かと言われそうなくらいに力説していた。秋が深くならないうちに、松茸昆布をごちそうしましょうと約束までしていた。

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