人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

「京都大衆酒場で、ちろりから注ぐ冷や酒」

2024.08.31

 トークの仕事で京都に行った。日帰りで。

 日帰り京都キツイ。

 だけど、無駄に時間があっても夏の京都は暑い。トークの現場は駅から近い場所だったので、もう割り切ってちゃっと済ませてちゃっと帰ろうと決めて向かった。

 ところが、京都駅から徒歩5分なのだが、その5分が苦しいほど暑い。これほどか。

 建屋の中での公開トークは涼しかったが、その最中に外はゲリラ豪雨だったらしい。

 終わって帰るときは雨は上がっていて、濡れた道が涼しかった。助かる。

 駅に向かう道を、来る時と変えてみたら、裏通りに開いたばかりの居酒屋発見。いわゆる大衆チェーン店ぽい店だが、少し年季が入った感じがいい。思わず飛び込む。トークの一人打ち上げだ。

 まずは生ビールをゴクゴク。最高。

 メニューには肉も魚も野菜もいっぱいある。うん、悪くなさそう。大衆居酒屋の良質店という感じ。

「うまい出し巻き卵」四六〇円を頼んだら、大きくてふっくらしておいしかった。刻んだ青ネギが混じっていて大根おろしが添えてある。文句なし。これでめしも食える味。

 新幹線まで少し時間があるので、京都の地酒も飲んで行こう。メニューを見て「まるたけえびす本醸造」五八〇円を冷やでもらう。

 アルミのちろりで出てきた。月桂冠のお猪口と。いいじゃないのちろり。飲むと常温だった。問題ない。うまい。今はこういう酒がいい。

 アテは「サバの味噌煮(小)」三八〇円。(小)というのが酒飲みにはうれしい。おお、薄切りの生姜がのっていて、汁多め。この汁を割り箸につけて舐め舐め飲めるぞ俺は。お皿の柄もさりげなく洒落ているではないか。切った笹の葉を添えてるのも心憎い。

 新幹線までの小一時間を飲むには最高の酒場ではないか。どんどん客が入ってくる。若者グループもいれば、年配夫婦客もいる。こんな明るい時間から。あ、そうか今日は日曜日だ。みんなここはいつも来る店、という慣れた顔をしてやってくる。店員たちは皆若く、女性店員も多く、皆きびきび働いていて気持ちいい。

 いいなぁ、こんな店が近所にあったら。

「暑いなぁ、ちょっと飲んでいこか」「ええな、行こ行こ」「いつものあそこでええか」「そやな。安いし近いし」

 そんなふうにして連れ立ってくる店に思える。でもカウンターに一人年配客もきた。なんか信用できる店な気がしてきて、日帰り京都でここを選んだ選球眼が間違ってなかった、とニンマリしながらちろりの酒をお猪口に注ぐのだった。こんな京都もいい。

*バックナンバーは有料記事となります。

久住昌之 オフィシャルウェブサイト (sionss.co.jp)

過去記事一覧

四ツ谷で、長野に旅気分

2024.07.31更新

蒲田の蕎麦屋で驚く

2024.06.30更新

「東京駅構内で立ち飲み一杯」

2024.05.31更新

「武雄温泉でちょいと贅沢酒」

2024.04.30更新

「飛騨古川で、熱燗と中華」

2024.03.31更新

「修善寺のアジ寿司弁当とカップ酒」

2024.02.29更新

「さくら納豆」に、大いに戸惑う

2024.01.31更新

寿司屋のカニクリームコロッケ

2024.01.29更新

「石川県で、手取川を呑みながら」

2023.11.30更新

「ちょっとだけ遠い蕎麦屋で、祭りの一杯」

2023.10.31更新

「長野でおいしい野菜と旨い酒」

2023.09.30更新

「函館の冷凍イカと五稜」

2023.08.31更新

「野沢菜の天ぷらに救われた」

2023.07.31更新

「奈良でおからで地酒」

2023.06.30更新

「門司港の激シブ角打ちで、数年ぶりに飲んだ」

2023.05.31更新

「修善寺で蕎麦屋酒」

2023.04.30更新

「名古屋・堀田で見つけた名店」

2023.03.30更新

「浅草で旅の最後に立ち寄る店」

2023.03.03更新

「和歌山・田辺の炉端焼き、感動」

2023.01.30更新

「福井・若狭で、二泊三日の旅酒」

2022.12.31更新

道東の紅葉と天の川で、宿酒

2022.11.30更新

「新幹線の鶴亀と、究極の肴」

2022.11.01更新

「呼子のイカのサルサフリットで燗酒」

2022.09.30更新

「長崎駅で立ち飲みした日本酒」

2022.08.30更新

「有馬温泉で湯上り散歩夕飯酒」

2022.07.31更新

「神戸元町の老舗にて、金盃で乾杯」

2022.06.30更新

「津軽で、純米吟醸の燗酒に驚く」

2022.06.02更新

「阿部野の老舗で雨の昼酒に酔う」

2022.05.01更新

「浜松、鰻肝焼きとタコブツで一杯」

2022.03.31更新

久住昌之のふらっと旅酒 #001 新潟編

2022.02.14更新