人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

鹿児島で半魚人の腹皮焼き

2025.04.30

 仕事で鹿児島に行った。鹿児島の繁華街といえば、天文館だ。だが今回の宿は鹿児島中央駅に近かった。ここから天文館までは4市電で4駅ぐらいある。今回は2泊だったので、最初の晩はあえて天文館に行かず、歩いた事のない中央駅近くの商店街で飲み屋を探すことにした。

 例によって早い時間から歩き回り、古そうなちょいと渋い店の何軒か目星をつけた。が、最終的に店構えがまだ新そうな『半魚人』という店で勝負することにした。

 店の外にはなんのメニューも出ていない。ノーヒントのこの店に決めたのは、店名だ。『半魚人』といえば個人的には、楳図かずおの恐怖マンガだ。小学生の時読んで怖すぎてトラウマになった。

 だがボクは20歳の時、縁あって楳図さんと2年ぐらいご一緒した。当時大ヒットしていた楳図さんの『まことちゃん』のイベントで「まことちゃんバンド」の一員としていろんな場所に出演したのだ。その話は長くなるから別の機会に。

 でも楳図さんは去年亡くなってしまい、ボクは淋しくて最近も楳図さんの本をたくさん買ってしまった。鹿児島の『半魚人』は、楳図さんに呼ばれたような気持ちもしたのだ。

 まだ夕方5時過ぎで、店は開いたばかりと思われる。階段を上がって入店すると「ご予約はありますか」と言われた。無いというと今夜は予約で満員ですが、7時前までならいいです、と言われた。今思うとこの時点から親切だ。

 失敗覚悟だったので「小一時間で帰ります」と言うと快くカウンターに案内された。

 結論を急ごう。

大当たりでした。超うまい、予想よりずっと安い、居心地いい。

「あら煮」「ヤリイカさっと炙り」

 すぐできる肴から「あら煮」「ヤリイカさっと炙り」を頼んでビール。これで出てもいいと思っていたが、この2品がめちゃうま。

「だし巻き卵ハーフ」

鹿児島の焼酎を追加して「その日のお新香とクリームチーズ」「だし巻き卵ハーフ」を頼む。これまたボクの経験上今までで最高レベルにおいしい。とくにだし巻きの味付け絶妙さ。

「鰹の腹皮焼き」と日本酒「篠峯」

まだ7時まで時間があったので「鰹の腹皮焼き」と日本酒「篠峯」ワンカップ冷酒。いやもう言うことなし。これでお会計。

 店主は女性でスタッフも全員若い女性。全員動き良し、感じ良し。いやーいい店に当たった。楳図さんにも感謝。

 どのくらいよかったかというと、翌日も天文館に行かず半魚人に来ちゃったほど。翌日も予約満席っぽかったので、予約客が帰ったであろう9時半過ぎに行ったら、空席ありました。10時半ラストオーダーだったけど問題なし。違うもの頼んでまた全部おいしかった。久しぶりに教えたくない店だ。

 

★下記から新規会員登録をし、有料会員登録をしていただくとすべてのバックナンバーをご購読いただけます。

新規会員登録 | ビミーデジタル

久住昌之オフィシャルウェブサイトはこちら

久住昌之 オフィシャルウェブサイト

過去記事一覧

新潟は米がうまいからなんでも来いだ!

2025.03.31更新

「五島列島で「三・五・七・鬼」に驚いた」

2025.02.28更新

「鈴鹿でいい店にあたった夜」

2025.01.29更新

「東北新幹線でおにぎりと缶酒」

2024.12.30更新

「西成でたこフェに遭遇、〆にカレーうどん」

2024.11.30更新

「若狭で「なっぱ煮」に感激した夜」

2024.10.31更新

「大船渡で心温まる居酒屋に入れた」

2024.09.30更新

「京都大衆酒場で、ちろりから注ぐ冷や酒」

2024.08.31更新

四ツ谷で、長野に旅気分

2024.07.31更新

蒲田の蕎麦屋で驚く

2024.06.30更新

「東京駅構内で立ち飲み一杯」

2024.05.31更新

「武雄温泉でちょいと贅沢酒」

2024.04.30更新

「飛騨古川で、熱燗と中華」

2024.03.31更新

「修善寺のアジ寿司弁当とカップ酒」

2024.02.29更新

「さくら納豆」に、大いに戸惑う

2024.01.31更新

寿司屋のカニクリームコロッケ

2023.12.29更新

「石川県で、手取川を呑みながら」

2023.11.30更新

「ちょっとだけ遠い蕎麦屋で、祭りの一杯」

2023.10.31更新

「長野でおいしい野菜と旨い酒」

2023.09.30更新

「函館の冷凍イカと五稜」

2023.08.31更新

「野沢菜の天ぷらに救われた」

2023.07.31更新

「奈良でおからで地酒」

2023.06.30更新

「門司港の激シブ角打ちで、数年ぶりに飲んだ」

2023.05.31更新

「修善寺で蕎麦屋酒」

2023.04.30更新

「名古屋・堀田で見つけた名店」

2023.03.30更新

「浅草で旅の最後に立ち寄る店」

2023.03.03更新

「和歌山・田辺の炉端焼き、感動」

2023.01.30更新

「福井・若狭で、二泊三日の旅酒」

2022.12.31更新

道東の紅葉と天の川で、宿酒

2022.11.30更新

「新幹線の鶴亀と、究極の肴」

2022.11.01更新

「呼子のイカのサルサフリットで燗酒」

2022.09.30更新

「長崎駅で立ち飲みした日本酒」

2022.08.30更新

「有馬温泉で湯上り散歩夕飯酒」

2022.07.31更新

「神戸元町の老舗にて、金盃で乾杯」

2022.06.30更新

「津軽で、純米吟醸の燗酒に驚く」

2022.06.02更新

「阿部野の老舗で雨の昼酒に酔う」

2022.05.01更新

「浜松、鰻肝焼きとタコブツで一杯」

2022.03.31更新

久住昌之のふらっと旅酒 #001 新潟編

2022.02.14更新