-
-
「鈴鹿でいい店にあたった夜」
2025.01.29更新

人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
「五島列島で「三・五・七・鬼」に驚いた」
劇映画「孤独のグルメ」のロケ地のひとつである五島列島に行った。
五島はとにかく魚がうまい!これはもうシマアジからタイからカツオからなんでも超新鮮でおいしい。ウチワエビなんて珍しいエビもある。釣り人羨望の島でもあるようだ。ボクは釣りをまったくしないのだが。
島に着いた夜は観光課のおすすめの店に連れて行っていただいたのだが、二軒目は個人で勝手にふらっと行きたい。観光客が来ないような、地元の人が普段使いに行く店に。
で、ボクが見つけて入った店が、宿のある福江島の「やきとり武蔵」。
ここのカウンターに座って、とりあえずビールを飲みながら、店内の様子を伺おうかな、と思って目の前の焼酎のボトルを見て驚いた。
ボクの好きな屋久島の焼酎「三岳」があったのだが、その隣にまったく同じデザインのラベルで「五岳」がある。何?

その隣に「七岳」。そ、そんなのあったの?全然見たことも聞いたこともないぞ!どういうこと?ボクが知らないだけ?
で、その隣に「鬼岳」。・・・あれ?なんか変だぞ。
その隣に「五島」。三岳は屋久島の酒なのに五島?ここ五島列島だけの三岳シリーズってこと?頭が混乱する。
ムムム、しかしなんかこの「五島」の字は変だぞ。レタリングとして。いや「鬼岳」もバランスがおかしい。
じーっと見る。
なーんだ「五岳」「七岳」も、「三岳」にマジックで線を書き加えたものだ。イタズラ描きだ。やられた。思わず苦笑い。しかし面白いこと考えたなぁ。
ビールを飲んでたらお通しの「イイダコ煮」が出た。ウマイ。嬉しくなって、大将にラベルにダマされたことを話した。そしたら驚いた。

このイタズラは大将本人がやったのだそうだが、五島列島には実際に、三岳・五岳・七岳・鬼岳という山があるのだそうだ。へぇ!急に並んだボトルがすごく洒落た遊びに思えてきた(翌日、ロケで鬼岳に登った。普段着、普段靴で気軽に登れる低山だが頂上からの眺めは抜群)。
すっかり気持ちがリラックスして、キビナゴの焼いたの(それまで刺身しか知らなかった)やミナ(シッタカ)を摘んで三岳のロックを飲んだ。

五島列島は一般的にとにかく鮮魚推しなのだが、実は野菜がすごくおいしい。ランチで食べた「蕪のポタージュ」には思わず目を剥いた。
その印象があまりに強く、島からの帰りにマーケットでカブを買った。自宅でカブを銀杏切りにして、ちょっとしなしなになった葉っぱと共に、島の塩と鯖のへしこフリカケで味付け、オリーブオイルで炒めた。そしたら歯応えと甘みがあって、ものすごくおいしい。葉っぱもしっかりしているが固くはなく噛み心地よく味は濃く最高にうまい。
家にあった長野の酒「美寿々」の冷やのアテにも実によかった。後日、地元のスーパーで買ったカブでやってみたが、水っぽくて味も薄く、ちょっと残念だった。

★下記の新規会員登録ビミーデジタルにご登録いただいた方はバックナンバーをご購読いただけます。↓
久住昌之 オフィシャルウェブサイト (sionss.co.jp)