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「三重県の知らない町へ」
2025.06.30更新

人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
「長野で「やたら漬け」のご利益」
長野に行った。善光寺のある長野市。泊まったのは駅前のドーミーイン。
チェックインして少し仕事して暗くなってきて、さてどこかで飲もうかなと思って裏口的な出入り口から出た瞬間に「とくべえ」という看板が目に入り、その名前と看板の店名文字で「いいな」と思ってそこに入ることを決めた。
とくべえ、って居酒屋としていい名前だ。そういうオーソドックスでクラシックでわかりやすい名の居酒屋って近年少ない。しかも平仮名。どうやってその名前がついたんだろう。そういうことを想像するのは面白い。そういうのを今の人はすぐ検索したり、一見さんのくせに店の人に聞いたりする。いや聞いたっていいけど、その前に少し自分の頭で想像したらどうだろう?
自分の頭を使うことを「めんどくさい」という人は、やがて仕事を全部AIに奪われるだろう。そしてAIの考える年寄りグルメを、無理やり口に押しこまれて、生きながらえるのだ。今のうち己の脳を使おう。
ドーミーインは形態は少しずつ違うが、基本的に温泉大浴場が付いているのがありがたい。長野の駅前のとこは露天風呂もあってすごくよかった。原稿書いてひと風呂浴びて、ごろっとしてから、着替えて出掛けて二十歩ぐらいでもうビール。最高。
まず頼んだのが「やたら漬け」。初めて見る一品。出てきたものは生のキュウリ・ミョウガ・ピーマンを刻んだものにさらに細かく刻んだ味噌漬けをのせたもので、混ぜて食べたらすこぶるウマイ!すこぶる好み。これは一口で気に入った。うちでも作りたい。がこの味噌漬けが無い。これが決め手だ。これはどの酒にも合うし、箸休めとしても最高。一緒に頼んだもつ煮込みもおいしくて、「長野に来たら、宿はここ、飲み屋はここ。もうそれでいいじゃないか」。

と安易に思ったほどだ。入り口近くのカウンターの端というベストポジションに座れたのもよかった。どんどんお客さんが入ってきて、予約の人も行ってすぐ満席になり、満席で断られる客も出てきた。自分の直観が間違いでなかったことが証明されていくようで嬉しい。
冷酒を頼む、300mlの瓶で冷えた長野の地酒「渓流」。おいしい。肴もうまいし「いい店に当たった」といい気分になってるから、なんでもうまいと感じるのかもしれない。それでいい。そんなもんだ。
さらに「いか香味揚げ」というのを頼む。これがまた旨かった。長野は海の無い県だ。なのにイカ。でもイカの味も味付けもいい。冷たい酒が揚げ物に合う。

この店は店の大きさの割には肴の種類が少なめだ。だがどれもうまそう。居酒屋の少数精鋭メニュー大好きだ。例えば「肉ニラもやし」なんてのを隣の人が頼んでたが、実にうまそう。いいところをついている。
メニューの1番に書いてあるコロッケを頼んでみようかと思ったが、これは頼まないでよかった。うまそうだがものすごくデカイ。とても一人では食べきれないほどの厚みと面積だった。大勢で来ることがあったら頼んでみたい。
翌日東京に帰ったのだが、せっかくだから早朝6時半に起きて善光寺参りに行った。これが想像以上によかった。逆なんだが「とくべえ」のご利益だと思った。

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