「悪石島の民宿の宴会」
2025.08.31
6月上旬、ボクはトカラ列島に行った。その時は「トカラ列島」と聞いても、どこにあるのかわからず、その言葉の響きから北海道かと思ったほどだ。
だけど東京に戻って二週間後、トカラ列島を襲った群発地震のため、報道によりその名前と場所は全国で知られることとなった。悪石島は震度4、震度5が続き、島外避難勧告が出た。
ボクはその悪石島に行っていたのだ。人口80人に満たない小さな島だ。肉牛の飼育と漁業が主な産業だ。「ボゼ」という日本とは思えない姿の島の神は、ユネスコ文化遺産に指定されている。
「ボゼ」の仮面を被った筆者
とはいえ、鹿児島からフェリーで10時間の小さな島。生活用品や食料品を売る小さな売店が一軒あるだけ。飲食店はない。コンビニもない。旅人は三食民宿で食べるしかない。床屋も歯医者も電気屋もない。交番もない。小さな診療所が1軒あるだけ。急病人が出たら奄美大島からドクターヘリを呼ぶ(所要時間20分)。おまけに砂浜もない。
そんな不便といえば不便この上ない島だったが、紺碧の海は美しく、とにかく静か。鳥の囀りしかしない。島民は穏やかで、子供たちはのびのびと明るかった。心が洗われるよう。
ボクが手伝い体験したのは島名産の「大名タケノコ」採り。竹藪に入り、長さ数十センチの細見なタケノコを見つけて素手で根本から折る。灰汁のない筍で生でも食べられる。
大名タケノコ狩り
小さな共同温泉で汗を流し、民宿に戻って宴会だ。島の人が4人5人と遊びに来た。自分で採ったタケノコを、刺身、天ぷら、吸い物で食しつつビール。最高です。
大名タケノコの天ぷら
もちろん周りは海、刺身もうまい。カンパチにシビ(キハダマグロの幼魚)。ここで酒を「トカラ海峡」に変える。種子島で作っているさつま焼酎だ。やっぱり島では焼酎がうまい。民宿の主人のお父さんがいちいちお湯割りを作ってくれた。言葉は少ないがすっごく楽しそうで、その顔を見ているだけで酒が旨くなった。
なんだかモノと店と人と情報が溢れかえっている東京の方が不自由で息苦しく思えた夜だった。
何はともあれ群発地震が収まったので、本当によかったと心から思った。「そんなリスクのある島に住むな」という心ないSNSの書き込みを見たが、地震に対するリスクは大都市に住んでいる方がはるかに高いよ。
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