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四ツ谷で、長野に旅気分
2024.07.31更新
人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
「京都大衆酒場で、ちろりから注ぐ冷や酒」
トークの仕事で京都に行った。日帰りで。
日帰り京都キツイ。
だけど、無駄に時間があっても夏の京都は暑い。トークの現場は駅から近い場所だったので、もう割り切ってちゃっと済ませてちゃっと帰ろうと決めて向かった。
ところが、京都駅から徒歩5分なのだが、その5分が苦しいほど暑い。これほどか。
建屋の中での公開トークは涼しかったが、その最中に外はゲリラ豪雨だったらしい。
終わって帰るときは雨は上がっていて、濡れた道が涼しかった。助かる。
駅に向かう道を、来る時と変えてみたら、裏通りに開いたばかりの居酒屋発見。いわゆる大衆チェーン店ぽい店だが、少し年季が入った感じがいい。思わず飛び込む。トークの一人打ち上げだ。
まずは生ビールをゴクゴク。最高。
メニューには肉も魚も野菜もいっぱいある。うん、悪くなさそう。大衆居酒屋の良質店という感じ。
「うまい出し巻き卵」四六〇円を頼んだら、大きくてふっくらしておいしかった。刻んだ青ネギが混じっていて大根おろしが添えてある。文句なし。これでめしも食える味。
新幹線まで少し時間があるので、京都の地酒も飲んで行こう。メニューを見て「まるたけえびす本醸造」五八〇円を冷やでもらう。
アルミのちろりで出てきた。月桂冠のお猪口と。いいじゃないのちろり。飲むと常温だった。問題ない。うまい。今はこういう酒がいい。
アテは「サバの味噌煮(小)」三八〇円。(小)というのが酒飲みにはうれしい。おお、薄切りの生姜がのっていて、汁多め。この汁を割り箸につけて舐め舐め飲めるぞ俺は。お皿の柄もさりげなく洒落ているではないか。切った笹の葉を添えてるのも心憎い。
新幹線までの小一時間を飲むには最高の酒場ではないか。どんどん客が入ってくる。若者グループもいれば、年配夫婦客もいる。こんな明るい時間から。あ、そうか今日は日曜日だ。みんなここはいつも来る店、という慣れた顔をしてやってくる。店員たちは皆若く、女性店員も多く、皆きびきび働いていて気持ちいい。
いいなぁ、こんな店が近所にあったら。
「暑いなぁ、ちょっと飲んでいこか」「ええな、行こ行こ」「いつものあそこでええか」「そやな。安いし近いし」
そんなふうにして連れ立ってくる店に思える。でもカウンターに一人年配客もきた。なんか信用できる店な気がしてきて、日帰り京都でここを選んだ選球眼が間違ってなかった、とニンマリしながらちろりの酒をお猪口に注ぐのだった。こんな京都もいい。
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久住昌之 オフィシャルウェブサイト (sionss.co.jp)