人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

久住昌之のふらっと旅酒 51

2026.04.30

仙台の居酒屋はフトコロが深い

 「ニッポン箸休めさんぽ」で行った仙台では、文化横丁の老舗居酒屋「源氏」に行くことができた。それはもう素晴らしい店だったのだが、自分で探した店ではない。

 でもその前夜は、ロケの後、一人で飲みに出かけた。ホテルの近所を歩いたのだが、いやぁ、良さげな個人店がザクザクある。

 仙台といえば日本屈指の居酒屋街・国分町だが、そこに行くまでもないほどだ。

 しかし翌朝も早いので、あまり店は選べない。古き渋き店探しは捨てて、ホテルの近くで、仙台ではまだ新しそうな居酒屋「つるかめ」に入った。客は地元のサラリーオヤジたちもいればカップルもいる店で、カウンター席にスポッと座れた。右隣は若い女性二人の女子飲み、左は一匹狼。

 ビールと「新玉ねぎとうるい・金柑のサラダ」を頼んだ。店員は皆若いが動きがキビキビしていて、対応もいい。博多で目の前で大アクビしていた女子店員とは大違いだ。お通しが「白魚と若竹のお吸い物」。気が利いてる。わかめも入っていておいしい。飲む前に汁物、胃袋にやさしい。

 そして新玉ねぎのサラダがおいしかった。金柑が見た目に爽やか、味も香りも爽やか。

 これっをゆっくり飲んで食べて、店内の喧騒に身を任せている旅の途中時間がいい。

 時々「一人で飲みに行って、何してるんですか?ボクは間がもちません」という人がいるけど、酒を飲んでいればいいわけで。間がもてないということはない。スマホの画面を眺めて飲むのはどうも人間が小さくなりそうで嫌だ。

 その後「ツブアワビ貝の旨煮」というのを頼んで、日本酒に変えた。「杉勇」を頼む。去年閉店した練馬の居酒屋にいつもあった。店主が好きだったのだろう。宮城の酒だったか。あの店もよかったなぁ。旅先で地元の店を思い出して懐かしんでいる。

 日本酒を出したら、何も言ってないのに水も出してくれたのがエライ。

 ツブアワビというのも初めて食べた。確かに貝殻がつぶ貝だが、身はアワビっぽい。少し硬いけどおいしかった。何より酒に合う。海の近い地方に旅にきているという事を思い出し、しみじみ噛み締める。

 メニューには「鶏タタキと明太子」とか「トマトと生湯葉」という二つの食材の珍しい組み合わせの肴が色々あって面白い。昔ながらの店で昔ながらの名産品を食べるのも旅の楽しみだけど、新しい店でこういう肴に出会うのもウキウキする。

 お酒をおかわりして、厚揚げ焼きを頼む。厚揚げ、油揚げは、旅先でもよく頼む。家でもしょっちゅう食べている。

 隣の女性客はなんか柑橘系の酎ハイを梅酒ソーダを飲んで楽しそうに話している。奥の会社員オジサンスループも結構大声で笑っていて楽しそうだ。いろんな客を受け入れている、若いのに懐の深い居酒屋だ。

 もう一杯酒をおかわり。同じのでいいや。それを飲んでお勘定をしたら、若い店員に「あの、孤独のグルメのクスミさんですよね」と小声で言われた。あれ、バレてたか。でも最後に他の客に聞こえないように言うところが、仙台、最後までさすがでした。

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