人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

秋田で回り回ってきりたんぽに舌鼓

2026.05.29

秋田で回り回ってきりたんぽに舌鼓

 数年ぶりに秋田に行った。
 秋田到着は19時半。ここからはフリータイムだ。翌日に手伝いをしてくれる人と一緒に、居酒屋求めて夜の街へ。例によって、調べないで宿を出る。
 歩き出してすぐ、道沿いの川だかお堀だかわからない広い水路の向こうに、
「秋」「田」「乃」「瀧」


という四文字が見えて、なぜかちょっと笑ってしまう。「秋田の滝」って、ちょっと漠然とし過ぎている。居酒屋チェーン「養老乃瀧」の下手な真似みたいでもある。
 そこを越えてずっと道沿いに行くと、
「そば処 たちそば」
というのがあって、これにもちょっと笑った。「たちそば」が店名なんだろうけど、それじゃ「そば処 立ち食いそば」みたいじゃないか。
 なんて思いながら、水路を渡って、向こう側に行くと大飲食店街が広がっていた。
 今夜の作戦としてとりあえず「おでん」と書いてある居酒屋でよさげな店を探した。おでんを通年やっているところに、高い店は少ない。土地に古い個人店も多い。
 最初に見つけた店は満員で入れなかった。
 2軒目に入った店では「申し訳ありません、今日はもうおでんが大根ぐらいしか残ってなくて」と言われた。両方人気店っぽい。だが、2軒立て続けにダメだと、もうおでん作戦は揺らいでしまい、もう古そうなとこならどこでもいいや、となった。ところがやっぱりよさそうなところは満員、いいかなと思って覗いたらガラガラ過ぎて不安になった。うまくいかない夜だ。
 そうやって結局かなり歩いたところで
「秋田乃瀧」に出会った。最初にお堀の向こうに見えたのはこの店の背中側だった。回り回ってここに来たか、と笑っちゃって、入ることにした。


 ここが秋田郷土料理店で、大正解。
 まず「わらびおひたし」「じゅんさい」「とんぶりとろろ」といった秋田名物を堪能。ハタハタはあいにく売り切れだったが、きりたんぽ鍋が1人前から食べらる。
「秋田の地酒3種飲み比べセット」というのがあって頼んだ。ところが酒の説明書きと、味がどう考えても違う。どうやら店員が注ぐのを間違えていた。真ん中の酒はいいが左右は中身と名前が逆だった。
 まあそれはこちらで気づいたのでご愛嬌。
 そしてもったいぶらずにきりたんぽ鍋を頼んだ。

 あらかじめ向こうでできあがった鍋を、木の板に乗せ、カウンターの向こうから渡してくれる。満タンの鉄鍋が薄くて取手もなく、汁がこぼれそう。
「(板を両手で)しっかり持ってくださいね、離しますよ、離しますよ」
と渡してくれるのがスリリングで面白かった。こぼしたら大惨事だ。もう少し深い、取手付きの鍋にすればいいのに。
 でもこのきりたんぽ、絶品だった。今までで食べたので文句なくナンバーワン。芹も入っていて、これが効いてる。量もいい。
 そのうち店員さんと話すようになり、料理のことや、店名の由来も聞けた。
 秋田で最初に笑った店に入ることになるとは。それだったが名店とは。面白いなぁ。

★下記から新規会員登録をし、有料会員登録をしていただくとすべてのバックナンバーをご購読いただけます。

新規会員登録 | ビミーデジタル

久住昌之オフィシャルウェブサイトはこちら

久住昌之 オフィシャルウェブサイト

過去記事一覧

久住昌之のふらっと旅酒 51

2026.04.30更新

「ロケ先で日本酒をご馳走になった」

2026.03.26更新

「博多で飲み直し酒が、楽しいことよ」

2026.02.27更新

「羽村の寒い夜、蕎麦屋呑み」

2026.01.31更新

「琵琶湖の小さな島で飲んだ」

2025.12.31更新

「夜のカッパと、初の姫路おでん」

2025.11.30更新

「新潟ひとり二次会」

2025.10.31更新

「佐渡島に7年ぶりの演奏旅行」

2025.09.30更新

「悪石島の民宿の宴会」

2025.08.31更新

「長野で「やたら漬け」のご利益」

2025.07.31更新

「三重県の知らない町へ」

2025.06.30更新

「青森の居酒屋で旨い蕎麦に出会った」

2025.05.29更新

鹿児島で半魚人の腹皮焼き

2025.04.30更新

新潟は米がうまいからなんでも来いだ!

2025.03.31更新

「五島列島で「三・五・七・鬼」に驚いた」

2025.02.28更新

「鈴鹿でいい店にあたった夜」

2025.01.29更新

「東北新幹線でおにぎりと缶酒」

2024.12.30更新

「西成でたこフェに遭遇、〆にカレーうどん」

2024.11.30更新

「若狭で「なっぱ煮」に感激した夜」

2024.10.31更新

「大船渡で心温まる居酒屋に入れた」

2024.09.30更新

「京都大衆酒場で、ちろりから注ぐ冷や酒」

2024.08.31更新

四ツ谷で、長野に旅気分

2024.07.31更新

蒲田の蕎麦屋で驚く

2024.06.30更新

「東京駅構内で立ち飲み一杯」

2024.05.31更新

「武雄温泉でちょいと贅沢酒」

2024.04.30更新

「飛騨古川で、熱燗と中華」

2024.03.31更新

「修善寺のアジ寿司弁当とカップ酒」

2024.02.29更新

「さくら納豆」に、大いに戸惑う

2024.01.31更新

寿司屋のカニクリームコロッケ

2023.12.29更新

「石川県で、手取川を呑みながら」

2023.11.30更新

「ちょっとだけ遠い蕎麦屋で、祭りの一杯」

2023.10.31更新

「長野でおいしい野菜と旨い酒」

2023.09.30更新

「函館の冷凍イカと五稜」

2023.08.31更新

「野沢菜の天ぷらに救われた」

2023.07.31更新

「奈良でおからで地酒」

2023.06.30更新

「門司港の激シブ角打ちで、数年ぶりに飲んだ」

2023.05.31更新

「修善寺で蕎麦屋酒」

2023.04.30更新

「名古屋・堀田で見つけた名店」

2023.03.30更新

「浅草で旅の最後に立ち寄る店」

2023.03.03更新

「和歌山・田辺の炉端焼き、感動」

2023.01.30更新

「福井・若狭で、二泊三日の旅酒」

2022.12.31更新

道東の紅葉と天の川で、宿酒

2022.11.30更新

「新幹線の鶴亀と、究極の肴」

2022.11.01更新

「呼子のイカのサルサフリットで燗酒」

2022.09.30更新

「長崎駅で立ち飲みした日本酒」

2022.08.30更新

「有馬温泉で湯上り散歩夕飯酒」

2022.07.31更新

「神戸元町の老舗にて、金盃で乾杯」

2022.06.30更新

「津軽で、純米吟醸の燗酒に驚く」

2022.06.02更新

「阿部野の老舗で雨の昼酒に酔う」

2022.05.01更新

「浜松、鰻肝焼きとタコブツで一杯」

2022.03.31更新

久住昌之のふらっと旅酒 #001 新潟編

2022.02.14更新