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「秋田で回り回ってきりたんぽに舌鼓」
2026.05.29更新

人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。
「熊谷でフライとビール」
初めて熊谷で降りた。
新宿から湘南新宿ライン一本で1時間10分ぐらい。乗ってしまえば案外近い。
いい街だ。駅前をちょっと外れると、歴史を感じる古い渋い店がちょいちょい残っている。
まだ開いてない飲み屋横丁もいい感じ。これはぜひまた夕方に来たい。
と思いながら歩いていたら、出てきました「フライ」の店。
フライは北埼玉のご当地B級グルメ名物のひとつ。フライと言いながら揚げ物ではない。薄いお好み焼き的な小麦粉食品。行田が発祥と言われ、熊谷にも店はあると聞いていたが、あった。老舗っぽい雰囲気がある。
洗いざらしの暖簾がすばらしい。ここでは「ふらい焼き」と書いてある。フライを焼いてる。しかもひらがな。B級だが「名代」というのもいい。

これにはグッときた。入るしかない。午前11時過ぎだが、もうやってるし。
店内にはすでに中年男の先客が一人いてビールを飲んでいる。四人掛けの卓につく。
お品書きを見るとふらい焼きには5種類あり一番が「肉玉ふらい」。入っているのは(キャベツ・肉・玉子)。他に卵が入ってないのや、キャベツと卵だけのや、干しエビや切りイカが入ったのがある。値段は600円から710円。それぞれ(大)あり。安い。

でもテーブルに鉄板はない。店員が焼いたのを持ってきてくれる。まずはビールを頼む。日本酒はないようだが、「ハイボール(缶)」がある。
フライの他には、焼きそばとうどんがある。
先客のところに熱いうどんが来た。続いてふらい焼き。おお、そんなに食べるのか。それが今日の昼ごはんなのか。でもビールも飲んでるし、この人仕事はなんなんだ。
お「味噌おでん1本190円」があった。それも悪くない。
40歳ぐらいに見える自由業らしい男が入ってきて、フライを頼んだ。ビールはなしの単品。ボクも彼に被せて「肉ふらい」を頼注文。
出てきたふらい焼きはのせている皿とほぼ同じ大きさ。というがまず面白い。白い皿のふちがほんの少し見える。そして全体にべったりとソースが塗られている。

ほぼお好み焼きだが、青海苔なし、紅生姜なし、踊る鰹節なし。実にシンプル。お好み焼き文化で育たなかったボクは、具沢山のお好み焼きがちょっと面倒臭く感じるので、このライトなふらい焼きは好感度大。
割り箸で切って食べた。薄い。うまい。これは好き。ビールにもバッチリだ。楽しいじゃないか。
そこへ宅急便の配送の人が来た。厨房の店員さんは気づかない。先にいた中年客が
「おーい、宅急便だよ」
と厨房に知らせた。
「はーい」とお母さんが出てきた。クーラーの室外機だった。なかなか大きい。
配達員が店内に運び入れると、お母さんが
「ご苦労さん」
と言って、店の冷蔵庫から缶のコカコーラを出して、若い配達員に渡した。
「あ、すいません」
いいなぁ。こういうの、まだあるんだな。いい光景を見た。ふらい焼きがしみじみうまい。
3枚の電話注文があって、その後おばあさん客が入ってきて、
「3枚お願いできる?」
と言ったら、
「ちょうど今できるから持ってって」
とお母さんが答えている。電話注文の品をおばあちゃんに渡してまた作るんだろう。
ほんと、こういう小さなドラマこそ旅の酒の最高の肴だ。ビールをグッと飲んだ。
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