人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

「熊谷でフライとビール」

2026.06.30

  初めて熊谷で降りた。

 新宿から湘南新宿ライン一本で1時間10分ぐらい。乗ってしまえば案外近い。

 いい街だ。駅前をちょっと外れると、歴史を感じる古い渋い店がちょいちょい残っている。

 まだ開いてない飲み屋横丁もいい感じ。これはぜひまた夕方に来たい。

 と思いながら歩いていたら、出てきました「フライ」の店。

 フライは北埼玉のご当地B級グルメ名物のひとつ。フライと言いながら揚げ物ではない。薄いお好み焼き的な小麦粉食品。行田が発祥と言われ、熊谷にも店はあると聞いていたが、あった。老舗っぽい雰囲気がある。

 洗いざらしの暖簾がすばらしい。ここでは「ふらい焼き」と書いてある。フライを焼いてる。しかもひらがな。B級だが「名代」というのもいい。

 これにはグッときた。入るしかない。午前11時過ぎだが、もうやってるし。

 店内にはすでに中年男の先客が一人いてビールを飲んでいる。四人掛けの卓につく。

 お品書きを見るとふらい焼きには5種類あり一番が「肉玉ふらい」。入っているのは(キャベツ・肉・玉子)。他に卵が入ってないのや、キャベツと卵だけのや、干しエビや切りイカが入ったのがある。値段は600円から710円。それぞれ(大)あり。安い。

 でもテーブルに鉄板はない。店員が焼いたのを持ってきてくれる。まずはビールを頼む。日本酒はないようだが、「ハイボール(缶)」がある。

 フライの他には、焼きそばとうどんがある。

 先客のところに熱いうどんが来た。続いてふらい焼き。おお、そんなに食べるのか。それが今日の昼ごはんなのか。でもビールも飲んでるし、この人仕事はなんなんだ。

 お「味噌おでん1本190円」があった。それも悪くない。

 40歳ぐらいに見える自由業らしい男が入ってきて、フライを頼んだ。ビールはなしの単品。ボクも彼に被せて「肉ふらい」を頼注文。

 出てきたふらい焼きはのせている皿とほぼ同じ大きさ。というがまず面白い。白い皿のふちがほんの少し見える。そして全体にべったりとソースが塗られている。

 ほぼお好み焼きだが、青海苔なし、紅生姜なし、踊る鰹節なし。実にシンプル。お好み焼き文化で育たなかったボクは、具沢山のお好み焼きがちょっと面倒臭く感じるので、このライトなふらい焼きは好感度大。

 割り箸で切って食べた。薄い。うまい。これは好き。ビールにもバッチリだ。楽しいじゃないか。

 そこへ宅急便の配送の人が来た。厨房の店員さんは気づかない。先にいた中年客が

「おーい、宅急便だよ」

と厨房に知らせた。

「はーい」とお母さんが出てきた。クーラーの室外機だった。なかなか大きい。

 配達員が店内に運び入れると、お母さんが

「ご苦労さん」

と言って、店の冷蔵庫から缶のコカコーラを出して、若い配達員に渡した。

「あ、すいません」

 いいなぁ。こういうの、まだあるんだな。いい光景を見た。ふらい焼きがしみじみうまい。

 3枚の電話注文があって、その後おばあさん客が入ってきて、

「3枚お願いできる?」

と言ったら、

「ちょうど今できるから持ってって」

とお母さんが答えている。電話注文の品をおばあちゃんに渡してまた作るんだろう。

 ほんと、こういう小さなドラマこそ旅の酒の最高の肴だ。ビールをグッと飲んだ。


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