人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者である久住昌之さんがふらっと立ち寄ったお店、そこで嗜んだ地酒について気ままにつづります。

「秋田でぼっけ味噌」

2026.08.31

7月の終わりに、重い荷物を運んでいる途中で、荷物ごと転倒し、左の鎖骨を骨折した。
さいわい、鎖骨の端の方の小さな骨折で、ものを書く仕事には不自由はなく、コルセットだけつけて自然治癒療法。三週間でだいぶよくなってきた。

でもさすがに最初の一週間はアルコールは抜き、次の一週間も家ではノンアルコールビールを飲み、外でも酒は控えていた。からだも治癒しようとしてるのか、飲みたいと思わなくて、夜はなんだか早く眠くなった。よくできてる。

元気になってくると、またビールも酒もうまい。酒の味で己の回復がわかるとは。酒抜きの間、この半年でどこで飲んだ酒がうまかったかなぁ、とか思い出していて、秋田の居酒屋で「ばっけみそきゅうり」でビールから日本酒、というのを思い出した。

ばっけとは、ふきのとうのこと。つまりばっけ味噌は、こちらでいう蕗味噌。苦味がおいしい。これを生のキュウリにつけて食べたのが、酒抜きの寝しなに懐かしく蘇った。
 秋田の夜、最のビールのアテによく、地酒「春霞」の「美郷錦仕込み 田んぼラベル」の冷やにも実にしっくりきた。

女性二人でやっている店で、黒板名に丁寧な字で書いてある「本日のおすすめ」が、「炙りカツオと焼きなすニラポン酢だれ」(頼んだ。うまかった!)「牡蠣わかめ酢」「鶏ももローズマリーグリル」「春かぶのたらこバター」「海老のズッキーニのチリスパイス炒め」など、どれもこれもひと工夫ありで、注文が悩ましかった。大きな店ではないが、今度は何人かで来て、もっといろいろ頼みたい。

2階の店なのだが、表からの階段の壁に「大きな声での会話お断り」みたいなことと書いてあったので、ちょっと緊張したのだが、お客さんはみんなおいしいもの食べてうまい酒飲んで、大きな声で笑っていた。しかたがないよ。おいしいのが悪い。自然と笑いが出る。

でも一人で黙って飲んでいても居心地のいいカウンターだった。
 黒板の最後に「自家製ガトーショコラ」「抹茶黒豆アイス」というデザートがあるのが女性店主らしくて、食べなかったけどなんだかいいなぁと思った。


 禁酒中だったら、食べてみたかった。なんて、酒抜きでは絶対に来たくない店だが。
 7年前に入院した時、普段全然食べないチョコレートが食べたくなって、面白いなと思ったが、今回も禁酒中に仕事している時、チョコレートが食べたくなった。


 近所に売っている「シーソルトチョコレート」というのを冷蔵庫で冷やして、ひとカケ食べるとすごくおいしい。たくさんはいらない。

健康なのに禁酒するのはつまらないので、たまにこういう事故があると、ちょっと面白いな、なんて今書けるのはもう酒解禁してるからだろう。

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